小説 | ナノ


▼ こっからが本領発揮

■AAA。美柴さんがAAAを抜けるって話の続き…的なお話。(曖昧/笑")


「……え、今…なんて…?」
「……………。」
斉藤一雄が、ぽかんと間抜けな顔で 目前に座る桐生を見た。
その隣で、中条伸人も不可解に眉を寄せている。

桐生は はぁとうんざりした息を吐いて、もう一度二人に同じ報告をした。


「美柴鴇は、AAAから外れるそうだ。」


ずいぶんと長い間、二人は動かなかった。
いつもは一人大騒ぎをする斉藤も、今ばかりは言葉を失っている。

「…………理由は?」
桐生を待つ間に吹かしていたタバコをもみ消して、中条が低い声でそう切り出した。
しかし桐生は 肩をすくめる。

「もっといい賞金を出してくれる企業があったらしいが」
「引き抜きって事か?」
「どこの企業かは分からない。真偽も定かではない。」
「はっ、つまり何にも分かんねぇーってことだな」
「………そうだな」

下手な反論をしない桐生に 中条が忌々しげな舌打ちをした。

「あんた、仮にも俺たちの監督役なんだろ。それじゃ完璧に監督不行き届きってのじゃねぇーのか?」
「……言い返すつもりはない。正直、こうなるとは思っていなかった。」
「使えねぇー監督だな」
「〜〜それよりも!!」

押し黙って何か考え込んでいた斉藤が、突然バン!と立ち上がった。

「今は鴇さんと連絡取るのが先じゃないっスか!?こんなとこで話し合ってたって何にも分かんないままってことでしょ!?」
「……連絡とるったってお前…」
呆れ返る中条とは正反対に、斉藤は携帯で美柴の番号を呼び出す。
美柴が出た途端にに叫びだしそうな様子に、桐生は ふんと鼻で息を吐く。

『おかけになった電話は、現在使われていないか、電波が〜』

「繋がらない!!?」
「当たり前だろ。俺だって もしこうなりゃそうすんぞ」
「〜〜〜どうしよう中条さん!!」
「うるせぇーよ」

慌てる斉藤にゲシッと一発蹴りを入れてから、中条はもう一度桐生を見る。

「…で?俺達はどうなる?まさかこのままリタイヤになるんじゃねぇーだろうな?」
だとすれば何としても美柴を引き戻さなくてはならない。
凄む中条に 桐生は首を横に振った。

「…いや、私がメンバーを補充すれば済む話だ」
「そうか、なら早いとこそうしてくれ」
「!?ちょ、中条さん!?」

あっさりと美柴を切り捨てる中条に、斉藤が噛み付いた。

「そんな簡単に…!?今までずっと三人でやってきたじゃないっスか…!」
「あのな。いいか斉藤、よく考えろ。美柴は俺達よりも金を選んだことになる。お前の嫌いな”裏切り”ってやつだ。それでもお前、美柴がメンバーのほうがいいと思うのか?」
「っ!けど!鴇さんにも何か事情があったのかもしれないし…!」
「だったら結構じゃねぇーか、好きにさせときゃいいんだよ。どうせ美柴もビズから抜けるって事じゃないんだろ?」


中条は斉藤を言いくるめながら、桐生にそう確認する。

「あぁそうだ。どこかのチームで参加するようだ。どこのチームかは今調べさせてるが」
「〜そんな…でもッ」
「俺達が困るような話は一個もないって事だ。とっとと新メンバー入れて対戦させろよ。もう一ヶ月以上後無沙汰だぜ?」
「〜〜中条さん!!」
「なんだよ 耳元でうるせぇーな!」
「なんでそんな薄情なんすか!?鴇さんが帰ってこなくてもいいの!?」
「別に誰と組もうが負けなきゃいい話だろーが!」
「〜〜俺は!鴇さんと中条さんと、三人じゃなきゃ嫌だもん!」
「〜だからお前気持ち悪ィ事言ってんじゃねぇーよ 黙ってろバカが!」

ぐぐぐ!と必死に詰め寄る斉藤を 片手で押し返しながら、中条が怒鳴る。

「…確かに君達は問題ないかもしれないが、こちらはそうはいかない」

そんな喧騒の前で、急に 桐生の声がぐんと低く落ちた。
指を組んで、じっとテーブルに目を落とす。

「……あ?」
「…え?」
不穏な空気に 中条も斉藤も手を止める。
桐生は すっと冷めた表情で続けた。

「我々の事を知っている者を、そう簡単に他企業に入らせるわけにはいかないのだよ。君達も知ってのとおり ビズゲームは情報を奪い合うゲームだ。駒自身も、情報の一つ。そこから何が漏れるか分からない。」

「…………え、意味がよく分かんないんスけど」
「バカは黙ってろ。……つーかそもそも俺達は"そちらさん"のことは何にも知らされてないんだ。美柴から漏れる情報なんて、斉藤がバカってことぐらいだろ」
「うわ何それヒド!!」
ガーン!とショックを受ける斉藤のボケを流して、桐生はやれやれと頭を振る。

「何も分かっていないな。”それ”も重要な情報だ。どんな駒がどんな戦い方をするのか知られてしまう。こちらが不利になる。」
「んなもん、逆手にとるような戦い方すりゃいいだろ。斉藤がバカなのは変えられねぇーけどよ」
「ちょ、中条さんどこまで俺を貶めるんスか」

「いいや、処分したほうが手っ取り早い」

「っ!!」
「…………」

清清しいまでに当然と言い放った桐生の発言に、斉藤は息を飲み、中条はただ黙る。
二人からの深く強い視線に、桐生は(本気だ)と見せ付けるように厳しい目を返した。

「……そ、それって…どうゆう意味…?」
「言葉通りの意味だ。」
「…………なるほど。邪魔になったら消されるのか。おっかねぇーな」
「心配しなくても君達に不利益になるようなやり方はしない」
そうして、ふとため息を吐いて、テーブルからファイルを取り上げる。

「新メンバーの補充はそれが片付いてからだ。しばらくの休暇だと思っていてくれ。終わったらこちらからまた連絡する。」

ではまた、と部下を従えて 桐生は部屋を後にした。



「…………………」
「…………………」
パタリ、と閉じたドアを見送った中条と斉藤の間で 奇妙な沈黙が落ちる。

「…美柴もバカだなー」
隣の斉藤が 珍しく騒ぎ立てないせいで、中条が沈黙を破るはめになった。
「金に目がくらんで結局殺されるのか」
「中条さん!!!!」
「うおっ!?」

ガバ!と振り返った斉藤が 中条にしがみつく。

「どどどどどどうしよう…!!と、鴇さんが!!鴇さんがぁあああ!!」
「〜〜〜知るかよ!離れろバカ!!」

中条は決死の泣き顔を振りほどこうと 斉藤を思い切り蹴り飛ばす。
ぎゃふん!と弾け飛んだ斉藤は、しかしそれ以上泣き縋らずに、床に倒れたまま 動かなくなった。
ぎゅっと強く拳を握っているのが見て取れた。

「………おい斉藤。いい加減に」
「俺、鴇さんが死ぬなんて嫌だ。」
「………………」
「このままどっかのゴルゴ13に暗殺されちゃうのを、黙って見過ごすなんて嫌だ…!!」
「……まぁ本当にゴルゴ13が相手だったらいくら美柴でも殺られっかもしんねぇーな」
「…………中条さんは、本当にどうでもいいんスか…?鴇さん、死んじゃうかもしれないんスよ…?」
「……………………………………」

突っ伏したまま 悔しげな声でそう漏らす斉藤を見下ろし、中条は はあと大きく息をついた。
ソファーに座りなおし、煙草に火をつける。

「…………………助けてやる義理もねぇーし。第一、お前が言ったんだろ。『何か事情があったかも』ってよ…」
「…………………」
「俺達が何かしてやれる話じゃないんじゃねぇーか…?」

静かな、諦めを含んだ中条の声色に、斉藤は黙って唇を噛む。
何があったのか分からないまま、こんな形で終わっていいのだろうか。
自問自答。その答えは、一つしかない。

「〜〜〜俺やっぱ鴇さん探してく、ぎゃ!!」

意を決し 起き上がった斉藤は、しかし足を引っ掛けられてまたその場に突っ伏した。
鼻を押さえて足元を振り返れば、中条の長い足が自分の足を踏み潰している。

「〜何するんスか中条さん!!」
「それはこっちの台詞だバカ」
憤る斉藤に 中条は煙草の煙を吹きかける。

「どうやって探すつもりだ?俺達はお互いの事何にも知らないってのが売りだぞ?」
「っそ、それは…!か、勘とか……」
真っ当な意見に叩き潰され、もごもぐと口ごもる斉藤を、中条は 盛大な溜息で見やった。

「……新宿のどっかだろ」
「………へ?」
「美柴の居場所で検討つけるとしたら、新宿のどっかだ。飲み屋か飲食店。その辺りが妥当だな」
「………え、は、え?」

吸っていた煙草を 中条はポイと灰皿に捨てて、歩き出す。
きょとんと目を丸くする斉藤を うんざりと振り返った。

「探しに行くんだろーが。さっさと起きろバカが」
「!!」

ガチャ。
ノブを回して、中条が部屋を出て行く。
その後姿に、斉藤は感極まって飛び起きた。

「〜中条さぁん!!絶対!絶対鴇さんの事助けましょうねー!!」
「〜〜〜だから気持ち悪ィーんだよお前は…!!!」


斉藤の悲鳴が、高級ホテルに響き渡った。



「………………。」
ホテル前に留められた車中。

「……桐生さん。処分のほうはいつ頃に?もう依頼したほうがいいでしょうか」
運転席からの部下の問いかけに、そっと桐生は手を挙げる。

「………もう少し、様子を見よう。」
耳に掛けていたイヤホンを外し、ふと笑ってそう言った。



■そう簡単に裏切られる面子じゃないのがAAA。


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