小説 | ナノ


▼ あなたのためならどこまでも6

■続・中村明日美子著「あなたのためならどこまでも」パロ。結婚詐欺師中条×刑事美柴。





頭が痛い。
目の前は何かに塞がれて真っ暗だ。
手足は拘束されていて動かすことが出来ない。

ここはどこだ…?


ズキズキとした鈍痛に眉をしかめながら、美柴は少し身体を身じろいだ。
冷たいコンクリートの上に転がされていると分かった。

今、美柴は両手を後ろ手に手錠で拘束され、両足首はネクタイで縛り付けられている。
足首を縛るネクタイは手錠に通されていて、手を動かそうとすれば、それに繋がった足首も引っ張られる。
思うように動かない身体で足掻いていると、すぐそばでドアの開く音がした。
思わず 美柴は肩を強ばらせて息を潜めてしまう。

「お目覚めのようだな」
部屋に入ってきた男が ククと楽しげに笑った。
「なかなか良い眺めだ」
床に転がっている美柴を見下ろす。
「悪く思わないでくれよ。上からの命令なんだ」
「………」
男の薄笑っている表情が手に取るように分かり、美柴は小さく下唇を噛んだ。
視界を塞がれた先に安いカップラーメンの匂いがした。

「サツはどこまで掴んでる?」
男は持っていた割り箸を口に咥えて割り、美柴の傍らにしゃがみ込む。
美柴が何も応えないと分かると、ふとやけに妖しく笑む。
「強情な刑事さんだな。じゃあ……カラダに聞くとしようか」
「!」
一つ一つシャツのボタンが外されていくのが分かり、美柴は抗おうと身を捩った。
けれど後ろ手に拘束されていては、男の行動を阻止することが出来ない。
視界を塞がれたままで次に何をされるのか分からず、怯えてしまう。

シャツから露わになった乳首に、男は割り箸をツンと突き立てた。
「ッ…!」
何をされるのか悟り 息を飲んだ美柴を見て、男が更に割り箸で豆を摘むように仕掛けてきた。
徐々に固くなる乳首をしつこく摘まれている内に じわじわと奇妙な感覚が襲ってくる。
「敏感なんだな?もう片方も勃ち上がってきた」
「…ッ、〜ッ」
声は決してあげまいと唇を噛む美柴を、男は楽しげに追い込む。

「…ひとつ、味見してみようか…」
箸で摘んだそこに、ちゅぷとわざと音を鳴らして吸いついた。
「!」
んん、と美柴の口から愚図るような声が漏れる。
男の大きな手の平に、焦らすように下腹部を撫で回されて 微かに腰が揺れた。

「こっちもずいぶん苦しそうだな。楽にしてやろうか…」
男は美柴の膝を割って 足を開かせる。

「……弄ってもらえなくて、寂しかっただろ?」

美柴の窮屈そうなスラックスの前をつつと指先で撫でて、耳元にそう囁いた。
真っ暗な視界の中で囁かれる男の声は 低く甘い。
そして勝ち誇った笑みを含んだ調子。

「…………」
ジー…と、ゆっくりチャックが下ろされる。
美柴はそこでようやく口を開いた。

「お前……中条伸人だな」
「バレたか」

目隠しを外されると、そこには半年前に取り逃がした結婚詐欺師が 割り箸片手ににやんと笑っていた。



━━━━



中条は美柴を助手席に乗せると、当然のようにドライブへと車を走らせた。

「やっぱりコレがないとどうにも落ち着かねぇーっつーか」
運転する中条の左手首と、助手席の美柴の右手首は、手錠で繋がっている。
先程は美柴の両手を拘束していたそれが、半年前と同じように再び二人の男を繋いでいた。

「前回は美柴が俺を連行中だったが、今回は俺が美柴を誘拐中ってわけだ」
「…………。」
満足気な中条を横目に、美柴はむぅとスネた顔で掛けられた手錠を見る。


結婚詐欺師の刑事誘拐の経緯はこうだ。
見張りの車から降りた刑事は 落ちていたバナナの皮に足を滑らせ、すってんころりんと大転倒。
刑事はアスファルトに後頭部強打のうえ、気絶した。
罠を張っていた詐欺師はそのまま意識のない刑事を抱えて部屋に持ち帰り、誘拐は見事大成功!


「・・・・。」
自分でも情けなさ過ぎる。
美柴は未だに鈍痛の響く後頭部をさする。

「お前本当に刑事として気ィつけたほうがいいぜ。スキだらけじゃねぇーか」
むぅとむくれている刑事を見て、中条はククと笑う。
まさかあんなマリオカートみたいな罠で 呆気なく刑事を捕まえられるとは思わなかった。

「…今までどうしてた」
「あ?」
ずっと黙り通していた美柴が、やけにトゲトゲしい声で中条に問いかける。
「今まで、どこでどう暮らしてたんだ。半年も逃げ果せて」
「どうって…まぁ、あっちこっち転々と。義理と人情を頼りながらそれなりに」
「女か」
美柴は中条が最後まで答えを言い切らないうちに そう叩きつけた。
中条もそれを否定はしない。薄く笑う。
「ま、8割はな」
「………。」

つーん。
意地でもこちらを見ようとしない美柴に、中条は苦笑う。

(お姫さまはご機嫌ナナメだな)

車は高速道路に乗り、都心から離れ始めていた。

「…どこに向かってる?」
「どこってアレもねぇーよ。お前どっか行きてぇーとこあんのか?」
「警視庁。」
「そりゃそうだ」
美柴の簡潔な返答に笑った中条は、そこで一息、神妙な溜め息をついた。

「…でもそこは最終地点だな。この旅が終わったら出頭する。」

その思わぬ発言に、美柴は耳を疑って 中条の横顔を見た。
中条は静かに、何もかも覚悟したように笑っていた。

「だからこれが、正真正銘の最後のハネムーンだ」



━━━━


車がたどり着いたのは、日本でも名高い高山だった。

「……無理に決まってる」
「そうか?今まで結構無茶なシチュエーション乗り越えてきたんだし、イケるんじゃね?」

これに登ろうというのが、中条の提案である。
さすがに美柴も唖然として その馬鹿な案を却下する。

「…どう考えても無理だ」
「いやここは日本人らしく行っておこうぜ、山。」
「〜無謀にもほどがある…!」
「平気平気。天気も良いしよ」

待てと静止の声も聞かず、中条は山道を歩き出した。
手錠で逃げられない美柴は、文字通り引きずられながら、嫌だ無理だと抵抗むなしく、連れられていった。


そして一時間と経たずして、今、二人は猛吹雪に晒されている。


「〜山の天気は変わりやすい…!」
「まさか急にこんなド悪天候になるとはなー」
「前にもこんな事あったなぁ」と呑気に思い返す中条を、美柴はグイと引き寄せて怒鳴る。

「〜〜だからさっき引き返したほうが良いって言った…!」
「電波も通じねぇーな」
叱られている事など気にも止めず、中条は取り出した携帯を掲げている。
美柴も試してみたものの、やはり携帯は使えそうもなかった。

「とにかく下って、来た道を戻るしか…」
「下手に動かないほうがいいんじゃねぇーの?」
「他にどうしろって言うんだ」
「でもマジで視界悪いし、足元も不安定だろ、素人にゃ抜けるの厳しいと思うぜ」
そもそもの原因は自分だと言うのに、中条は悪びれる様子もなければ慌てた様子もない。
そのいつもと変わらない余裕さが、癪に障った。

「〜ならこのままこの吹雪の中、あんたと死ぬっていうのか!二人で…!?」

美柴が怒鳴ったその言葉に、中条は一瞬だけ どこか遠くを見るような目をした。

「………悪くねぇーな、それ」
このまま二人で、どこにも行かずに、離れることなく…。
そう考えれば……悪くない。

「……な、に…」
悪くない。
心穏やかに笑んでそう応えた中条に、美柴は反論も思考も一瞬停止してしまった。
何を言っているんだ、この男は。

「映画みたいでカッコいいんじゃね?繋がってんのが赤い糸じゃなくて手錠ってところがまぁ軽く猟奇的だけど。それはそれで案外、」

「ふざけるな!!」

飄々と言葉を続ける中条が許せなくなって、美柴は叫んでいた。

「いつもそうやってあんたは…っ!」

その先の言葉を続けられず、美柴は行き場のない感情を中条を突き飛ばしてぶつけた。
しかし手錠が繋がっているおかげで、どれだけ突き飛ばそうとしても互いの手首が痛むだけだ。

「おい、何、痛ぇーよ!おい美柴」
「いい加減なことばかり並べて…!!」

歯の浮いたセリフで、思ってもいないことを平気で言う。
その言葉で人がどれほど泣きたくなるかなんて思いやりもせずに…。
その行動ひとつでどれほど胸を痛めるかなんて、考えもせずに…!

「あんたは…!」

最低だ。

美柴が暴れていると、中条から手錠がスッポリと抜けた。
不意に外れたそれに、荒れていた美柴はきょとんと言葉を失う。
対して中条は「痛ぇーって言ってんだろーが」と不服げに手首をさすっている。
「・・・・・。」
最初から、中条は自分の手首に掛けた手錠にはカギをかけていなかったのだ。

「………〜っ!」
繋がっていると思っていた金具は、いつでも離れられるように仕組まれていた。
それはまるで、中条の本心のようで………。

美柴は中条に背を向けて、吹雪の中全力で駆け出した。
もう、こんな男と一瞬たりとも一緒にいたくない。
振り回される感情が苦しくて、悔しかった。

「おい美柴!?」
突然駆け出した美柴に、慌てて中条が呼び止める。


「勝手に一人で死ねばいい!!」


中条を振り返った美柴は最後、そう叫んだ。



━━━━


美柴は息が切れるまで走り続けた。
叩きつける吹雪に抗い、体温を奪う寒さにも抗い、足が動かなくなるまで走り続けた。

そうでもしないと、大声をあげて泣いてしまいそうだった。

体力尽きて、身体は雪の上にバッタリと崩れ落ちる。
肺の中に酸素を取り込みたいのに、呼吸すら上手く出来ない。息が苦しい。
周りはどこを見ても白、白、白。
止まない吹雪が美柴の上に雪を積もらせていく。

このまま何もかも埋もれて死んでしまうのかもしれない。

(……バカだ。あんなホラ吹きの詐欺師に振り回されて…こんなところにまでのこのこついて来て…)

本当は心のどこかで中条を信じたいと思っていた。
心の底から憎き犯罪者だと蔑むことが出来ずにいた。
その甘さが、命取りだった。
やはり相手はどうしたって結婚詐欺師で、自分のことなど最初から面白い玩具のようなものだったのだろう。
こんな風にいつでも外れる手錠を口実に、繋がったふりをしてきただけだ…。

(……何が悲しいのか…分からない…)

繋がっていたいと、思っていたのに………。

薄れいく意識に身を任せて、美柴はゆっくりと目蓋を閉じた。
閉じる目蓋に押されて、涙が目尻を伝っていく。

悲しいと嘆く涙は誰に届くこともなく、雪の中に埋もれていった。


━━━━


ぴちょん…。
岩を伝った雫が水たまりに落ちる音。
洞窟に反響するその音で、美柴はふと目を覚ました。
目の前には、ひどく神妙な眼差しでこちらを見つめる 中条がいた。
その手は美柴のネクタイを解き、ちょうどシャツのボタンに触れようとしているところだった。

「!?」
「お。いつもなら全部脱がした頃に起きるのに」
微睡んでいた瞼を見開き 慌てて身を起こした美柴に、中条はふふと悪巧んだ笑みを見せる。
美柴は地面に敷かれた中条のコートと自身のスーツジャケットの上に座っていた。

「……どこだ、ここ」
「こんな吹雪なのに勝手に駆け出しやがって。見つけたら堂々とブッ倒れてやがるし。とりあえず途中で洞穴あったから避難したんだよ」
雪に埋もれている美柴を見つけた時、中条は少しだけ息を飲んだ。
このまま凍りついてしまえば…なんて少しだけ退廃的なことを考えたのは内緒だ。
美柴が気を失っている間に、中条はこうしてこの洞穴に美柴を運んだ。

「とりあえず脱げよ。服濡れてるし、身体冷たくなってるぞ」
「ッ触るな」
シャツに手をかけてくる中条の手を、美柴は振り払う。

「……もう…もう俺に構うな、姿を見せるな」
「そんな駄々っ子みたいなこと言うなよお前」
思い詰めたように中条を拒絶する美柴に、中条はやれやれと呆れつつも手を伸ばす。
美柴はその手に怯えたように、顔を背けて小さく蹲った。
「あんたに関わるのはもう嫌だ…!」
どうせまた中条は気まぐれに離れていくのだ。
……怖い。

「半年も放っておいたくせに…!」

咄嗟に出たその言葉に、中条は言葉を失った。
だってそれじゃまるで……。

「…美柴」
「っ!違う、今のは…ッそうゆう意味じゃない!」

自分の口から出た言葉に驚いたのは美柴も同じだった。
こんなのは本音じゃないと、慌てて中条に訂正する。
けれど、それはもうどう言い換えても隠しようのないものだった。
逃げ場のなくなった感情に戸惑って、美柴は唇を小さく噛む。
見つめられているのに気がつくと、俯いてその視線から逃げた。

「美柴…」
羽が触れるようにそっと、中条の手が美柴を頬に触れて 上向かせる。
見上げた中条は 珍しくどこか辛そうな表情をしていた。

「……悪かった…」

そうして、美柴の手を取り その指にキスをする。
懺悔するように、目を閉じて 謝罪を口にした。

「……〜最低だ…」
熱い手に握られた指先に ちゅっと中条の唇が触れる度に、奇妙なこそばゆさを感じて、美柴は心底困ってしまっていた。

「…〜最低最悪の男だ…あんたは」
「…あぁ」
美柴の言葉に、中条は静かに頷く。
そうやって肯定されればされるほど、胸が苦しくなってくる。
「…あんたなんか大嫌いだ」
「あぁ…」
詰られるままに、中条は何度も償って 美柴にキスをする。
「………もう、〜」
そのキスの感触に込み上げる気持ちが苦しくて、美柴は中条の手を両手で責めるように握った。
額を中条の胸に埋めて、声を殺して叫んだ。

「もう、俺のことなんて、…〜忘れたのかと思った…!」

中条の背中を愕然と見送ったあの時から、美柴は胸に刺さった棘を無視しようと耐えてきた。
もしかするとこれも中条の『遊び』なのかもしれない。非情な男。酷い男。
そうやって相手を蔑み、憤ることでなんとか自分を正当化していた。
でも半年という長い時間で、憤りは諦めへとすり替わっていた。
……どうせもう、違う女で『遊び』をしているのだ。
だからこっちだって、こんな男忘れてやろうと思って……。

「……美柴…」

この胸にトゲを刺した張本人が、今、そこに触れてくる。
余裕のない声で自分の名を呼んで、見つめてくる。
「……ごめんな」
償いのキス。
額に触れたそれは 鼻頭や目蓋、頬と顔中に何度も降ってきた。
どこかムッとした表情をしつつも それを受け止める美柴は、中条の手が徐々にネクタイを外しにかかっている事に気がつく。

「…何してる?」
「そりゃもちろん相思相愛となればお約束だろ」
「……俺はあんたのことは嫌いだと言ったんだ」
「それもまた、お約束だな」

中条は手際よく美柴のネクタイを解いて、ニヤリと不敵に笑った。



「……ッあ…ッ」
性器を這う中条の舌の感触に、美柴は思わずギュッと目を閉じる。
そこに吸いつく卑猥な音の下で、中条の指が内壁を探っている。
くにくにと中を広げようとするその指の動きに、息が詰まる。
どれだけやり過ごそうとしても抗えない快感に、美柴は追い詰められていた。
しん…と静かな洞窟に、美柴の吐息が微かに響く。

「な…〜なかじょ…うさッ」
もう果ててしまいそうだと、根をあげようとした。
そのタイミングを待っていたかのように 中条は舌先で爆発しようとしている先端をこじ開けるように嬲る。
中で出し入れされる指の摩擦が激しくなる。

「〜ッん…!」
堪えきれずに果ててしまった。身体が強張って、びくびくと小さく震える。
「……ッ…はぁ…」
熱を吐き出した体は緊張が解け、くったりと溶けていく。
美柴が切なげな溜め息を零す。その扇情的な表情を見上げた中条は、もう一度、今度は深く深く美柴のそれを咥えた。
一雫も残さないとばかりにそこに強い勢いで吸い付いて、絞り出すように根元を扱く。
果てたばかりの身体をさらに追い込む中条の口淫に、微睡んでいた美柴は一気に引き戻される。

「あ…!?っんあ…ッや、め…んん!!」
「イったあとってかなり敏感になるよな…?」
「〜うるさい…んんッ」
甘く囁いた中条は 嫌々と頭を振る美柴に何度もキスを落とし、後孔に沈めていた指を引き抜いた。

「…ん」
埋まっていたものが無くなり そこに物足りなさを感じてしまった美柴は、もどかしく腰を揺らす。
そんな美柴を抱き寄せた中条は、もう充分に勃ち上がった自身の熱を美柴に充てがう。

「……何…を?」
「まぁ、キツイのは最初だけだ」
ぬるりと当たっている熱く硬いモノに、さすがに美柴の腰は引けてしまう。
しかし中条は逃がさまいと 身体を捕まえて押し込もうとする。
指以上の規格のものは受け入れたことのない美柴は、慌てて迫る中条の胸を押し返した。

「〜無理に決まってる…ッ!」
「平気平気。みんなヤってることだしよ」
「『みんな』はヤってない…!」
「そりゃそうだけど。まぁほら、座薬だと思えばイケるんじゃねぇーの?」
「座薬サイズなのかあんたは…!?」
「いや違うけど」
戸惑っている美柴を飄々と受け流しながら、中条はちゅっとその唇に口づける。
そうして、押し返そうとする美柴の手を包むように握る。
未体験の行為に不安そうなその瞳を、甘い視線で間近に覗き込む。

「……手錠ナシでも、繋がってたいだろ…?」

同意を求めるような言い方。
そんな風に言われてしまっては……敵わない。
「〜…ッ」
若干下ネタじゃないか、なんていう非難が出来る雰囲気ではない。
またこの男のペースに持っていかれてしまっている。
でも、……それがやはり嫌ではない。
最初からずっと、この関係が心地よかったのかもしれない。

自分の気持ちに観念した美柴は、中条からチラリと視線を反らした。
俯き気味に「じゃあ…」と呟き、小さな声で応える。

「…ちょっと、だけなら……許す」

(……くそ。可愛い)
素直じゃない美柴の様子に、にやにやと笑んでしまう口元を隠せない。
その笑みに気がついた美柴は またむぅとした顔になって中条を睨んだ。

「やめろって言ったらすぐやめろ」
「了解」
ふふと笑んだ中条は、両手で美柴の頬を包んで じっと深く見つめる。

「美柴…俺だけを見てろよ」

そうして噛み付くようなキスをして、再度 後孔に硬い熱を宛てがった。
ゆっくりと慎重に、その感触を美柴の肉に覚え込ませるかのように、中条が押し進んでくる。

「っ!ぁ…〜んんッ」
指とは比べ物にならない異物感。温度。感触。
それらすべてに息を飲んだ美柴は、懸命に中条の背中に腕を回し、縋った。

「…ぁあ!」
ずん!と撃ち込むように中条に強く突き上げられた瞬間、何もかも弾け飛んでいった。



そのあとの事は、あまりよく覚えていない。

痛くて、熱くて、頭の芯がじんじんと痺れて。
ただ…熱く激しい感覚に溺れる視界が、キラキラと光っていた。
抱きしめる中条の肩に額を押しつけて その匂いと体温に包まれていたら、やけに泣けてきた。
一つになろうと躍起になって、下肢は律動を繰り返し、唇では激しく絡まるキスをした。

その行為の中で、一生ぶん 泣いた気がした。



中条伸人には一年と三ヶ月の実刑判決が下された。



━━━━



そこはとある都内のコーヒーショップ。
美柴はテラス席で一人、男を待っていた。
道路から美柴を見つけた男が店内へと踏み込んできて、美柴の前に座る。

「…お勤めご苦労」
「ははっ。どうも」

つい先日まで刑務所にいたとは思えない。
まるでいつもそうやって待ち合わせていたかのように座ったその男は、中条伸人だった。

「今日は非番か?」
「……いや、昼休憩だ。これを渡したら帰る」
世間話も特にせず、美柴はテーブルの上に小さな小物入れを置いた。
「何だこれ?」
それは、結婚詐欺師であった中条もよく見知っている、指輪ケースだった。
それを美柴は中条のほうへと ぐいと押し付ける。

「……俺なりに考えた…」

中条が受け取って蓋を開けてみると、そこにはやはり、真新しい指輪が一つ光っている。
「……コレ…俺に、か?」
「〜他に誰がいるって言うんだ…」
思いもよらない贈り物に、中条は驚きで目蓋をぱちくりと瞬いて美柴を見る。
美柴は照れ隠しなのか、ムスと溜め息を吐いて 中条を上目に見返した。

「これが、手錠ナシでの繋がり方だ」

そう頬杖をついた美柴の左手の薬指にも、同じ指輪がもうすでに嵌められていた。
それを見て、中条はようやく、ふと安堵して笑った。
想いを形にして示されたことが、嬉しかった。

「これを嵌めたら、一生添い遂げるってことになるんだな」
「…長い道のりになりそうだ」

やれやれと溜め息を吐きつつも、美柴は指輪を嵌めた左手を中条に向けて掲げる。
「まったくだ」と笑った中条も 指輪を左手の薬指に嵌め、同じように美柴に掲げた。

指の間から、互いが見える。
交差する視線は、もう敵対はしていない。
もう二人は、刑事と結婚詐欺師ではない。

掲げられた美柴の左手を、中条がそっと握った。

「どこへでも連れてくから、覚悟しろよ」
「……望むところだ」

二人、世界の果てでもどこまでも。


■あなたのためなら、どこまでも。


[ back to top ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -