小説 | ナノ


▼ いつかは…

■中条家お母様。落書きなので脈略気にせずにー;;(10.10/29日記ログ)




散歩ついでにいつも寄る最寄の公園。
手を繋いで隣を歩いていた優希が、誰かを見つけてタタッと駆け出す。
その先のベンチに座る女性が 優希を見つけて、はんなりと微笑む。
同じ優しい笑顔でこちらを見て そっと礼をする女性に、同じように少しだけ頭を下げた。

嬉しそうに笑う優希が(こんにちわ)と女性にぺこりと挨拶する様子を、見守る。

「………………」
……ごくたまに ここで会う女性を、今までずっとこの近所のおばさんだと思っていた。
けれど、彼女の身元に気がついてしまったから……もう今までのように世間話さえも出来る気がしない。
本当に優希を可愛がっているように見える手に、重く黒い後ろめたさが燻る。


そんな気後れする自分を余所に、いつものように優希と女性が親しげに笑顔を交わしていく。
はい、と優希は屈託なく女性に何か差し出した。
さっきコンビニで引き当てた、ショートケーキのストラップ。

(どーぞっ)
「…?私にくれるの?」
うん!と大きく頷く優希に 女性は暖かく笑う。
(ありがとう。嬉しい。)
そう、拙い手話を優希に見せた。
自分の為に覚えてくれたサインに、優希は驚いて けれどとても嬉しそうに振り返る。

(鴇、見た!?おばちゃんね、手話覚えてくれたんだ)
「………………」
喜々とはしゃぐ優希に、曖昧な表情で頷く。

「可愛いストラップね」
(お揃いなんだよ!)
ほら見てと優希は自分のカメラを女性に見せる。
二人で お揃いのストラップを掲げて笑う光景に、声が震えた。
言ってはいけない。でも、言わないままではいられない。

…きっといつか、こうゆう日が来るのだと、心のどこかで怯えていた。

「………………あの、」

はい、とこちらを見上げた女性の笑顔に、息が詰まる。
どんな顔で向き合えばいいのか、分からない。

「………、」

でも、確かめたかった。

「……………中条、さんの…」

でも、それ以上は 怖くて、言葉に出来なかった。

「…………………………」
「……………………っ……」

ざぁと風が凪いで、ベンチはしんと静まり返る。
こんなにも心が震える沈黙は、無い。

(……………?)
優希が 妙な空気を察して、心配そうに駆け戻ってきた。
(…鴇ー?)と首を傾げて、指先を握る。
小さなその手をそっと握り返して ゆっくりと顔を上げた。

女性は、とても寂しそうに、静かに微笑んでいた。

「−……、」
いつも どこか寂しそうに笑う人だと、思っていた。
優希もそんな彼女を心配して、(どこか痛いの?)と尋ねていることもあった。

どうしてそんな風に笑うのか。
何がそんなに貴方を傷つけているのか。
分かってしまうのが、怖い。

長い長い沈黙の後。
そっと目を閉じて深呼吸をした女性が 小さく頷く。

「………黙っていて、ごめんなさい…」

心苦しげに 小さな声でそう謝る姿に、何も言えなくなる。
静かに立ち上がった女性が、真摯に 自分と優希を見る。
言いようのない恐怖で、身体が凍る。
優希の手を、ぎゅっと強く握った。

「私は、伸人の……」



中条さん、



「母です。」


俺は、どうしたらいい…?




■隠れていても、逃げていても、いつかは(オンリーロンリーグローリー/BUMP)




[ back to top ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -