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▼ 拝啓、弟をよろしく

■美柴さん+店長さん+中条さん(10.10/22日記ログ)



「いやぁ〜終わった終わった」
とあるバーにて、店長の男がようやく終わったガラス棚の設置に背骨を鳴らす。

「届いた時はどうしようかと思ったけどなー」

今日、注文していた新しいガラス棚が届いた。
今まで使っていた棚よりもデザインに凝って選んだものだ。

オープン当時はとにかく安くて壊れてなければ何でもいいと買い揃えたインテリアを、こうして一新させるのは 本当に嬉しくてたまらない。
店の為にこんな大きな買い物が出来るようになったんだと実感する。

本来は、明日美柴が来たら手伝ってもらおうと思っていた。
しかし、思いの外嬉しくてテンションが上がってしまい、自分で組み立ててみようと包装を解いてしまった。
……そしてやはり一人ではかなり無理がありそうで、途方に暮れてしまった。

(……このまま置いとくのも邪魔だしなぁ)
そう覚悟を決めて 袖を捲くり上げたところで、休みなはずの美柴がひょっこりやってきた。
「…………手伝う。」
そうして、同じように袖を捲くった。




「なんとか開店前に出来上がったな」
振り返り、美柴に にこりと笑いかける。
「……まだ終わってない」
しかし美柴は一切緩まない表情で カウンターに並ぶグラスやアルコール瓶を拭いて、棚に戻し入れる作業に入った。


「助かったよ本当に。開けたはいいけど、一人でどうしようかと思ってたんだ」
「………だと思った」
素っ気ない返事をする美柴だが その横顔は満足気なのが、店長には分かる。

「でも良かったのか?今日は学校も休みだったのに」
「……別に他にする事 何もない」
そんな静かな返答に 思わず苦笑いを零してしまった。
「鴇、お前ね、今日みたいな休日を誰かと過ごすとか そうゆうのも大事なんだぞ?」
「………………必要ない」
「もしかして昨日も店終わってから何処にも行ってないのか?」
「……………………。」
「今日は泊まってってよー!とか、また明日も会ってよー!!とか、そうゆう」
「無い。」
固い表情で質問を遮って即答をした美柴に、店長は一瞬驚いて しかし「ふーん」と半笑い気味に相槌を返した。
この子のこうゆう反応は、図星だった時だ。


「………何笑っ」

カランコロン

からかうように ほくそ笑む店長に気付き、美柴が 怪訝に問い掛けようとした時だった。

「よぉ」
店のドアが鐘を軽く鳴らし 来客を迎えた。

「あぁ、いらっしゃいませ」
店長は来客の見覚えのある長身に 笑いかける。
「……………」
その隣で、美柴は途端にむっと不機嫌になり、苦々しい溜息を短く吐いた。

「店長が歓迎してんだから、従業員もそれに倣えよ」
美柴の不機嫌を薄笑いで流し、中条は慣れた様子でスツールに腰を下ろした。
「おいとりあえず灰皿」
「自分で取れ」
当たり前のように 煙草を挟んだ指先を美柴に見せる。がしかし美柴は一蹴してグラスを拭く作業を続ける。

「こら鴇、そんな態度しないの」
店長は やれやれと呆れ笑いながら 灰皿を出してやり、二人のやり取りを見守った。

「………なんで来るんだ」
「なんでって、「行くからな」っつっただろうが」
「だから、来るなって言った」
「お前だって さっき「またな」って言ってウチから出てったじゃねーか」

「…え?さっき?」
「!」

思わず耳に入ってきた中条の言葉の切れ端を、聞き返してしまった。
すぐさま隣の美柴が 店長の疑問符にギクリと手を止めた。
そして中条をギラと睨む。

「余計な事言うな」
「ぁあ?」
美柴にゴゴゴと黒い影を纏って凄まれた中条は意味が分からず、負けずと不機嫌そうに眉を寄せた。
「何がだよ?お前が言ったことじゃねぇーか」
「あれは別に…!〜もういい何でもない」
何か言いかけた美柴は、隣の店長からの意味深な視線を受け 慌てて口を結ぶ。

それ以上 中条に何を言われても無視を決め込む美柴を、店長はクスリと笑って覗き見た。

まるで、予期せぬ展開で秘密にしていた恋人を家族に見られた、そんな子供みたいに焦って素知らぬふりをしているようだ。


「納品でーす」
そこでちょうど入口に配達が届き、美柴は助かったとばかりに足早にカウンターを出ていく。
理不尽な怒りをぶつけられた中条が、品物や伝票を受け取るその背中を見て 煙草の煙を吐き出す。

「……意味分かんねぇ」
「ごめんね、多分俺のせいだよ」
そう白状し 店長は自分を指差して笑った。
「あ?」
中条は理由を聞こうと店長を振り返る。
けれど、何も答えず 店長も美柴の背中を見遣った。

(……そっか)
そうしてしばらく見守って、ふと中条を見て ふわと柔く微笑む。

「あんな子だけど、仲良くしてくれてありがとう。…これからも頼むよ」
「!」
中条はそんな言葉の意味に唖然とし、煽ろうとしたグラスをピタリと止めた。

店長は中条の返事を待たずに 美柴の元に歩み寄る。

「………………」
様々な瓶やカクテルを仕分ける美柴と店長を見遣りながら、なんとも言えない感情を感じて煙草にまた火を点ける。


「…………俺は婿かよ」


ボソリと呟いた言葉は 美柴にも店長にも聞こえず、 ただ一人 中条だけが満更でもない呆れ笑いを零した。




■中条さんはちょっと店長さんが苦手、とかだといいな。
店長さんはなんでもお見通しなのですよv



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