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▼ いつか来るその日まで

■注意事項■
このシリーズは生徒中条×教師美柴を基本とした学園パロディーです。
中条くんは留年中の我侭で規則破りな問題児。
美柴センセーは学園OBで訳ありの無感心教師。
思いつくままに書いていますので、各話の時系列が定まっておりません。
なので中条くんと美柴センセーが急に仲良くなったり、仲悪くなったりします。
美柴シギや千夏さんが二人の過去回想に絡んできたり、久保時などの峰倉チルドレンが友情出演する場合もございます。
どうか寛大なお心で楽しんで頂ければと思います。




Smile



学園の空気がほんの少しいつもと違う。
いつもは規律正しく押し込められた生徒達が、今ばかりは来週に迫る長期休暇に浮き足立っているからだ。
「何処ぞの別荘へ遊びに行く」だとか、「家で開かれるパーティーには誰それが来る」だとか。
昼食時の学園内はそんな富豪の御子息達らしい会話で溢れかえっている。

その木陰を覗いては。


「だー!もー!訳分かんねぇーよ!!」
むー!と唸っていた時任が 盛大に爆発して、課題のプリントに当たり散らす。
「…教科書も持ってきたほうが良かったな」
ぐしゃぐしゃにされたプリントを、美柴は溜め息を吐きつつ 丁寧に伸ばした。

『センセー助けて!』
午前の休憩中に、時任は突然美柴にそう泣きついてきた。
いつもならこうゆう時、時任は久保田の手を借りているが、どうやら今回はその久保田からの課題なので断られてしまったらしい。
そこで次に白羽の矢が立ったのが、美柴である。
「……。」
久保田なら 例え自分の作った課題でも、甘やかしてしまいそうな気もしたのだが。
さすがにそこは教師として わきまえているのだろうか。
しかし美柴は、ペンを握ったままうんうん唸る時任を見て思う。

(…こうやって自分の出した問題を考える時任の姿を…見たいだけじゃないだろうか)

ついついあの教師の性格を深読みしてしまう。

「こんな基本問題で、何が分かんねぇーのかが分かんねぇーよ」
美柴の横には、中条が芝生に寝転がっていた。
最初は面白がって一緒に解いていたが、時任の進まない様子に飽きてしまったらしい。
呆れ顔で言う中条に 時任はますますむくれてしまう。
「うるせーなっ。てゆーか何でセンパイまでいんだよ!俺は美柴センセーに聞いてんだ!」
「俺がどこで昼飯食っていようが勝手だろーが」
「なんでわざわざココなんだよ。集中出来ないだろ!あっち行けっ」
「はっ、集中したってお前になんざいつまで経っても解けねぇーよ」
「〜〜!センセー!もっかい教えて!もっかい!」
「……。」

半ば意地になっている時任を宥め、薄笑いで揶揄う中条にも釘を刺す。
さっきからこの繰り返しだ。
いっそ久保田に「頼むから自分の生徒の面倒は自分で見てくれ」と願いたい気分だ。

そんな風に三人が過ごす木陰の脇を、別の生徒達が雑談しつつ歩いていく。
「休暇どうすんの?」
「んー?帰る。寮に残っててもやる事ないじゃん。そっちは?」
「俺も帰るよ。せっかくの長期休暇なんだし 羽根伸ばしたいよなやっぱ」
流れていった会話を耳にして、美柴ははてと目の前の二人の生徒を見た。
「……。」
どちらからも、来週から始まる休暇の予定は口にされていない。
二人には、帰る予定はないのだろうか?



「センセーはさ、休暇中って此処にいんの?」
疑問に思った瞬間に、時任がそう尋ねてきた。
一瞬見抜かれたような気がして驚いたが、ああと頷いて答える。
「残る生徒もいるから、教師も数人は残ることになってる」
どうせ帰る場所はないのだ。美柴は志願して居残ることにしていた。

「ふーん」と頷いた時任は、課題の続きに取り掛かりながら言う。
「そっか。久保ちゃんも残るって言ってたぜ。休みスゲー長くてヒマそうだったけど、良かった」
どこか大人びた笑みに、美柴は微かに首を傾げた。
「……帰らないのか?」
「うん、俺はそのつもり。だって、帰ってもあんま良いことねぇーし」
「…。」
「久保ちゃんもセンセーも居るんなら、ここに居たほうが楽しそうだしさ」
「…そうか」
さらりと言ったその横顔に、何となくそれ以上の質問は避けた。

おそらく生徒のほとんどが帰省する。
寮に残るのは、何か事情があるのだろう。

「センパイはー?」
時任の質問は今度は中条に向かう。

「あ?俺も帰んねぇーよ。行ったってどうせ親父や兄貴の説教を延々聞かされて、将来がどうとか言われて 社交会やら立食会やらに連れ回されるだけだしな」
「うーわー。センセー今の聞いた?さらっと後半に自慢入れやがったよ」
「ま、女優やらモデルやらに会う機会もあるけどな〜。今そうゆうのあんま興味ねぇーしな〜」
「何っだその余裕の表情。なんかムカつくんですけど!」
「その気になればそんなモンいつでも手に入るからなぁ〜、俺は。」
「〜うっせぇーよ!うっせぇ!」
ムキになって牙を剥く時任を、中条は笑う。

後半は からかって言っているだけで、本音は最初の一言だろう。
中条が実家と上手くいっていない事は 誰に聞かずとも明らかだ。

「あ!そうだ 四人いるんならゲームとかしようぜ!」
「は?お前この間のポーカー、俺に全敗したくせによく言うな?」
「っぐ!あ、あれは俺様が慈悲で手加減してやったんだよ!」
「へぇ〜?わざと掃除当番変わってくれたのか?優しい後輩が持てて俺はラッキーだなぁ」
「〜〜〜!!見てろよ!久保ちゃんがぎゃふんと言わせてやんだからな!!」
「お前じゃねぇーのかよ」

「…。」
楽しげに 騒がしく言い合う二人を見て、美柴は小さく息をついた。
胸の奥に何か重りを抱えているのは、自分だけではないのだと 静かに想う。
そしてきっと学生である彼らのほうが、もしかするとその重さに必死に耐えているのかもしれないのだと。
……もしもこの学園が、少しでも彼らを守る砦となっているのなら。


「なぁなぁ、センセーもポーカーやろうぜ!」
時任はウキウキとした表情で 覗き込んでくる。
中条も軽く笑って 美柴を指差した。

「断言してやる、こいつは絶対そうゆう類のゲームに弱い」
「だな!センセーって案外態度に出ちゃったりすんだよなぁ〜」
「お前もだろ。分かり易すぎて勝負になんねぇーんだよ」
「俺は嘘がつけない清い心を持ってんだよっ。アンタと違って」
「それは清いって言うんじゃなくて、バカって言うんだよバーカ」
「それ言ったら美柴センセーもバカってことになるじゃん」

「……。」
まだ約束を了承していないが散々な言われようである。
美柴の目が据わると、時任は慌てて首と手を振った。

「だー!!違う違う違う!!今言ったのセンパイだかんな!!」
「稔お前な、もっとオブラートに包んだ言い方してやれよ。っつーか人のせいにすんじゃねぇーよ」
「分かった。二人とも負けたら覚悟しろ」

自分もいつか、彼らを悪意や束縛から守る存在になりえるのだろうか。
それは教師としてではなく、………傍にいる者として。

「はっ、覚悟しとかなきゃなんねぇーのはセンセーの方だと思うけどな?」
「よっしゃ!約束だかんな!久保ちゃんにも言っとこ!」

この一筋縄じゃいかない生意気な笑顔を、知る者として…。



■抱え込んだ孤独や不安に 押しつぶされないように (君の知らない物語/supercell)


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