小説 | ナノ


▼ 密室劇場、始めます。

■落書き。ドラマ『鍵のかかった部屋』6話をパクリつつの推理もの。
自分が分かればいいやー的な書き方してます 悪しからずー(ぺこり





「わざわざ稽古の途中、集まって頂き有難うございます。」

壇上の上、そう切り出したのは 刑事の石井である。

「あの、実は神崎さんを殺した犯人と、そしてこの密室のトリックが判明したので、ご報告の為に集まって頂きました」
ぎこちない石井の進行と態度に、集められた者達は苛立ちや疑いの視線を投げかける。

「この後も舞台があるんですよ、今そんな事をされても困ります」
「じゃあこのまま殺人犯と一緒に舞台を続けられるんですか?」
ピリピリとした様子で不服を口にした演出担当の畑山を、雅紀がわざとらしく敬語で迎え撃った。
畑山はギラと雅紀を睨む。

「今日のチケットは完売してるわ。スポンサーとの兼ね合いもあるの。そう簡単に中止に出来るものじゃないのよ」
「そりゃー完売もするでしょうねぇ。だって殺人事件を乗り越えての涙の千秋楽ですもん。神崎さんには悪いけど、良い宣伝効果だったんじゃないですか〜?」
「ふざけないで!子供が面白半分に首突っ込まないで!」
「面白半分なんかじゃないですよ。これでも真面目にこの事件、捜査したつもりです」

「だったら犯人は誰だって言うの。あの密室を、どうやって犯人が逃げたっていうの!?」
「えー?それを告げるのは俺の役目じゃないですよー。ねぇ?」
そう言って、雅紀はアキラと石井に視線を寄越して ニコリ笑った。

「……。」
いつの間にか雅紀が話を上手く進めている。
相変わらずコイツは人を乗せるのが上手だとアキラは思う。

「なんなのよ!私達の中に犯人がいるっていうの!?どうなのよ!」
苛立ちを隠せずに、ついに畑山は 石井に詰め寄る。

「え、あ!そ…それはー……」
石井は困ったように後ろを振り返って アキラを見た。
アキラはやれやれと大袈裟に溜息を吐き出して、ワックスで逆立てた金髪をガシガシ掻いた。
そして、くいと親指で 隣の優希を示した。

「コイツの話を、聞いてもらっていいっスか」
示された優希は 照明のライトの中、こくりと首を傾げて、少しだけ微笑んだ。

「……。」
「……。」
そうして幕を開けた謎解きを、中条と美柴は客席の一番奥からしんと見守っていた。



壇上にいる今回の事件に関わる劇団の数人は、怪訝そうに優希を見ていた。
アキラに指名された優希は、しかし一行を無視してステージの手前から奥へと歩き始めると 突然床の一点をじーと見つめた。
「………何なの」
「コイツは優希。耳が聞こえないってのとちょっと変わってるってので、諸々の不思議動作は気にしないでやって下さい。これからコイツの推理を、俺が通訳します」
不可解気な面々に、アキラがそう説明する。
その間に、雅紀が 優希の視界に入るように寄って行くと、優希ははと顔を上げ 面々の前まで戻ってきた。
(OK)と頷いて、ちらとアキラとアイコンタクトを交わす。
アキラも頷き返し、すっと集まった面々を見渡した。

「ー…始めます。」

アキラの声が、広く静かな壇上で凜と響いた。


優希の手話とほぼ同時に、アキラが通訳を続けていく。


「まず、犯人は鬼塚さんです」
単刀直入の名指しに、一同は言葉を失った。
名指しされた鬼塚も 一瞬唖然とし、その後「ちょっと待て、俺は」と口を挟もうとした。
それをまた雅紀が言葉を被せて遮る。
「あーちょっと待って。最後まで聞いて下さい。手話の通訳って、結構神経使うんですよ」
そこで わざとじっくりと鬼塚を見つめる。

「…アナタがやってるパフォーマンスと同じくらいにさ」
「…。」
その言葉で、鬼塚はぐと言葉を飲み込んだ。
トリックの一端を突かれたのだ。

優希はそのやり取りを見やってから、手話を続ける。
同時に、アキラの通訳も再開する。


「鬼塚さんは冒頭のパフォーマンス終了後、下手側の楽屋で神崎さんを木刀で撲殺しました。そしてこの切り出しに隠れながら、舞台の上を横切って 上手側の楽屋に移動したんです」

優希は指先で言葉を連ねながら、壇上の奥に置かれているセットの一つにそっと触れた。
それは、ベニヤ板に枯れ木が描かれている、人が動かして移動させる背景道具だった。
大きさは 人一人が後ろに隠れるのにはちょうど良い程度。
確かにこれに鬼塚が隠れることは可能だ。しかし如何せん、大きすぎる。

「はあ?そんな大きいもんが演劇中に動いたら、観客だって気がつくだろ?」
案の定、一人の演者がそう嘲笑った。
しかし優希は 動揺することもなく、和かにアキラに視線を向けた。
見られたアキラが眉を寄せる。

「…あ?何だよ?」
(ここぐらいは、アキラの見せ場にしてあげようかと思って。)
「は?意味分かんねぇーんだけど」
突然一行を無視して交わされる手話の会話。
幼馴染の二人の間で交わされるそれは とても速く滑らかで、雅紀も追いつくのがやっとだ。
(さっき僕が教えてあげて、勉強したでしょう?それを皆に説明してあげてよ)
「なんで俺が」
(勉強っていうのはね、人に教えることが出来て初めて『身についた』っていうんだよ?)
「……分かったよ。ったく」
優希の綺麗に整った笑顔に、アキラは肩を落とした。
はぁあと大きな溜め息を吐き出して、圧倒さている壇上の面々を見やった。

「人間の目ってのは、あまりにもゆっくり移動するものを認識出来ないんだよ。」
アキラはつい先程優希に種明かしされていたことを 思い出しながら語る。

「人間の脳は、例えば 一つのものを集中して見ていると その背景で起こった変化を見落としたり、最初から「一部が変化する」って教えられてたとしても そう簡単には識別出来ないんだ」

あぁ!と雅紀が納得したように声を上げた。

「最近テレビでもよくやるよね!「この写真をよく見ていて下さい」って始まって、気がついたら写真の一部の色が変化してて 「ほら、気がつかなかったでしょー!」ってやつ!」
アキラは頷いてから、この舞台を見渡した。
「それと同じようなことが、あの時、ここでも起こってたんだよ」

優希はそこで、傍に立つ雅紀に手を伸ばした。
雅紀は先ほどから抱えていたiPadを優希に渡す。
片手に受け取ったiPadを、優希は壇上にいる全員に見せるように持った。
そこには 演劇の冒頭のシーンが一時停止で映し出されている。
優希は、画面の一部を指差した。

「その切り出し、よく見てろよ」
とアキラが言い、全員の視線が一番左端に置かれているセットに注目する。
優希は全員がそれを確認している様子を見渡してから、早送りで動画を再生した。

「あ!!」
演者の一人が、思わず声を上げた。他の面々も 目を見開いたり、口を押さえたりと様々な驚愕の反応を次々と見せる。
注目されている切り出しは、早送り再生でも驚くほどゆっくりと、けれど確実に、舞台を左から右へと横断していく。

「そして、この場面になる」
優希が早送りから通常再生へと変える。
映像は、演者全員が舞台に立っているクライマックスの推理シーン。
犯人だと指を差され 舞台から捌けるはずの女性演者が、知らぬ間に移動してきていたあの切り出しにぶつかってしまうアクシデント。

「この時、すでに鬼塚さんは楽屋に戻っていたはずです。」
優希はiPadを降ろし、雅紀に返した。
全員が 唖然と優希の顔を見る。
そうして、その大勢の視線は犯人だと言われた鬼塚に移動していった。
「………どうして俺なんだ?」
全員から視線を受けた男は、動揺することもなく、黙って優希を見据えている。
優希は淡々と手話を続け、アキラは重い声での通訳を続ける。

「この切り出しの動くスピードは、映像から推測して秒速0.2センチ程度だったと思われます。そこまでゆっくりと動くものを 客席から識別することはほぼ不可能。そしてこれは、特殊な動きで筋力を鍛えた人間にしか出来ない離れ技です。」

「……。」
鬼塚は思い出していた。
自分がゆっくりと動くロボットダンスの練習を積み重ねているのを、この少年が興味深げに見入っていた姿を。

「あなたのパフォーマンスをいくつか拝見しました。この劇団の中で、そんなことが出来るのは……」
そこで優希は、しっかりと鬼塚を見据えた。
優希の細く繊細な指先が、すっと持ち上げられ犯人に突きつけられる。
指された指先で、キンと張り詰めた視線が交差する。

「アンタだけなんだよ」

アキラは最後、優希の言葉に自分の言葉を重ね、優希と一緒に鬼塚を見据えていた。
しん、と静まり返る壇上で、声を上げることは誰一人出来なかった。

「……犯行に使われた木刀と 劇中で使われた木刀は全く同じ形をしています。なので、それが故意だったのか事故だったのかは…分かりかねます…」
重苦しい沈黙の中、石井は神妙に鬼塚を見た。

「……鬼塚さん…殺意は、あったんですか…?」
「…。」
鬼塚は項垂れ、首を小さく横に振った。

「ありませんでした…。俺は神埼に練習を頼まれ、本物だと気づかずに……殴ってしまったんです」
言葉に詰まりながら、悔やんだ表情を見せる鬼塚に 一同は遣る瀬無い感情で俯く。
「…分かりました。ではそのことを署でも話して下さい。私が同行します」
それを聞いた石井は、正義感の強い眼差しで鬼塚に頷いた。
「本当に事故なんです…」
鬼塚は心苦しげに弁解を続ける。

「計画的に人を殺すとしたら、舞台を横切るなんて方法、普通は選ばないでしょう…?」

黙ってその様子を見ていた優希はしかし、冷静な面持ちで 手話を作った。
それを見たアキラと雅紀は一瞬目を見張る。
アキラは優希の言葉を反芻するように口にした。

「違う。これは、計画的な犯行…」
「!」
アキラの声に 鬼塚を含めた全員が振り返った。

「事故である可能性を強くするために、誰もが無謀だと思える方法を鬼塚さんはわざと選んだ。もし自分が犯人だと特定されてしまっても、事故だったと証言できるように仕組んでおいた…」
「そんな…」
周囲は次第にアキラから優希へと視線を移していく。
優希の手話を読み上げながら、アキラさえも初めて知らされる事実に眉を顰める。

「このトリックには、緻密な計算に並外れた集中力と体力が必要です。とても咄嗟に思いつける行動ではありません。鬼塚さんはこの犯行の為に何時間も練習し、計画を練っていたはずです。」

優希は一度も鬼塚から視線を反らさない。
その強い目力に 鬼塚は思わず顔を背けた。

「…でも、優希、それを証明することは出来るの?」
雅紀が拙いながらに手話でそう問うと、優希は静かに 壇上の奥へと足を進め、床の一点を指差した。
そこは先ほど、優希がじっと見つめていた場所。
アキラと雅紀、そして石井や劇団の面々がその場へと歩み寄る。

「……この線…なんだ?擦り傷?」
優希が指差すそこには、舞台を真っ直ぐに横切る線があった。
しゃがみ込んだアキラが 首を傾げて その線を指先で擦った。
しかしその線は 床にこびり付いていて、少しも落ちない。
塗料ではないようだった。
全員が 答えを求め、優希に目をやる。
優希はアキラに頷いて、指先を動かす。

「この、床に何重にも残っているラインは、おそらく切り出しを引き摺った時に出来た痕だと思われます」
そこで雅紀が 「なるほど」と頷いて、言葉を繋いだ。
「たった一回の犯行で、これだけの痕は出来ない。何回も練習したってことになるよね」
そしてアキラが続く。
「多分 この傷と切り出し、映像を警察に分析してもらえば、立派な証拠になるな」
二人は優希の両脇に立ち、鬼塚を見据える。
「ズル賢い計算しやがって」
「あなたは自分が疑われ、トリックがバレる可能性も視野に入れて計画を立てた」
「バレなければそれでオーケー。バレても殺意のない偶発的な事故だったと証言出来れば、自分への被害は最小限に抑えられるってわけだ」

三人の少年の眼差しは、犯人を逃さない。
その視線に ついに鬼塚は看破され、茫然と立ち尽くした。

「…おい、石井」
「あっ…はい」
暗いアキラの声に 促されて、聞き入っていた石井は慌てて背筋を伸ばす。
そして、一度深呼吸をすると ゆっくりと鬼塚の前に立った。

「…鬼塚さん、警察署までご同行願います」
「……はい」
鬼塚は抗うことなく、一度静かに頷く。
そして、優希を見やる。
その目に宿る強い意思に、鬼塚はははと乾いた声で笑う。
「………いい役者になれるよ、君は。」
その笑い声は 静まり返った劇場に しんしんと響き渡った。


「………。」
鬼塚と石井が壇上を降り、客席の階段を上がっていく。
その後ろ姿を アキラ達はじっと見つめていた。



━━━━



「それにしてもお前よく分かったなー」
中条が運転席でそう言った。

アキラと雅紀、そして優希は 事が終わると、客席奥で立ち聞いていた美柴と中条の元に戻った。
そうして、少年三人は大人二人に対し、夕食に焼肉を要求した。
石井からの連絡や事後報告などは 待たずともどうせアトリエに言いに来るのだ。
それに、今は少しでも気が晴れるようなことがしたかった。

車に乗り込んだ途端の中条の切り出しに、優希は軽く笑う。

(雅紀が言った「犯人は舞台を横切ったんじゃないか」っていうのが引っ掛かってたんだ)
「おれ?」
雅紀は自分を指差して目を丸くする。
あれはあの時自分でも無理だと分かって言った 冗談だったのだ。
しかし、優希は頷く。
(だって、誰にも見つからずにそんな事が出来るなら、それがあの密室を作るには一番確実で、見破るのも難しいでしょ)
(だから 何か方法があるんじゃないかって思ったんだ)とサインを繋げる優希に、雅紀とアキラは感嘆する。

(それに僕は演劇の音が聞こえてないからね。聞こえている人よりも注意を他に逸らしてあの動画を見ていたんだと思うよ)
「だとしても、普通やっぱ気がつかねぇーよ。セットが動いてるなんて」
「優希があの時一緒に舞台を見に行ってたら、すぐ分かってたかもしれないね」

けれど優希は曖昧に笑って、首を横に振った。

(僕は雅紀からもらったあの動画を「何かあるんじゃないか」と疑いながら何度も見たんだ。確かに音に惑わされないっていう面では、聴覚の有無は関係していたと思うけど、でももし事件が起こったその時に僕が舞台を見ていたとしても、僕だって他の人と同じように舞台の中身に気を取られるだろうから、セットが動いてるかどうかなんて気がつかないと思うよ)

「それにしたって、毎回毎回見事に解決しちまうもんだよな」
そこでアキラがふと神妙な顔で優希を見た。
(…なに?)

「お前がもし完全犯罪を犯したとしたら、俺はその謎を見破れる気がしねぇーな」

一拍の間。
優希は にやり笑った。

(僕が何かやらかしたとしても、アキラに見破られるようなヘマはしないよ)


その不敵な笑みを乗せて、車は発進した。


「焼肉だぜ!焼肉!」
「うほお!俺初!徐々圓ですか中条さん!キタ━(゚∀゚)━!」
「ああん?バカ言うな、スタミナ次郎で我慢しろ」
「…あぁ確かそれなら駅前の通りにあったな」
「ちょっ、大人二人が90分1980円で俺達の活躍を労おうとしていますよ。どう思いますか優希くんアキラくんっ」
「んだよ、ケチんなよっ!」
(ねぇ、ちょっと。僕はグリーンウッズのチーズフォンデュがいいんだけどー)
「そういえばこの前別の焼肉屋がテレビでやっててさ」
「てゆーか此処どこだっけ?新宿遠くね?吉祥寺にも焼肉で有名な」
(ちょっと!推理したの僕なんですけどっ!?)



■終わります。笑




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