書籍紹介企画【第二回】
春待つ冬に読みたい小説
春期限定いちごタルト事件
著/米澤穂信
紹介/灯火野

あらすじ・紹介文

 主人公・小鳩常悟朗と小佐内ゆきは友達でも恋人でもなく、「互恵関係」にある。お互いの本性をひた隠しながら、平穏な日々を心から望み、「小市民」の道を目指すための関係だ。
 「小市民」たるため、始まったばかりの高校生活に奮闘する二人。ある日、小佐内の自転車が不良グループの一人に盗まれてしまった。それも、甘党の小佐内が食するのを待ちわびていた、イチゴをふんだんに使った限定タルトをカゴに入れたまま、である。真実に近づいては苦悩する、今までに例のない探偵役がコミカルな日常ミステリー。

本にまつわるエピソード

 この一冊で、二人が「互恵関係」と「小市民」を望む理由が明らかになる。その理由に私は深く納得し、共感できるならしたかったけれど、残念ながらできなかった。
 穏便で、無難で、目立たない存在。高校一年生が望むにはあまりに波風のなさすぎる選択肢、「小市民」。しかし彼らはそれを切望する。けれども彼らの望む「小市民」は、彼らの手のひらから滑り落ちていく。なぜならば、彼らは「小市民」を名乗るにはあまりに頭が切れすぎる。彼は真相を見抜きいくつもの謎を解き明かし、彼女は自分に危害を加えんとするものに対する手厳しい粛正を下す。
 彼らは「小市民」を望む。その一方で私は、彼らに「小市民」の称号を手にすることを望まない。小市民を手にしようともがくほどに、本性を露わにする彼らが愛おしいから、そして何より、私自身が一人の小市民であるという自覚があるからかもしれない。
 米澤先生の「言葉の定義」を大切にする姿勢は、いつも見習いたいと思うが難しい。自分の中に辞書を持つとはこういうことなのだと圧倒される。
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