他人と話をする、意外と難しいです。
相手の言いたい事ばかり先行して、自分が、置いてけぼりになる事もあります。その逆も然り。
それを避けられる「良い会話」のヒントになるかもしれない?ひとコマを語らせていただきます。
 
 
ある夜の事、一人の女性が、いつもの様に仕事を終え、家路を急いでいました。
前を見れば、人々が何かを避けています。
「何だろう?」
と思い、恐る恐る見てみると、
見知らぬ中年男性が倒れていました。
「誰か、助けてくれ...。」
周りの人達は、
「関わり合いになるとろくな事がない。」
と言わんばかりに、通り過ぎて行きます。
彼女も、また、「厄介事は御免」と通り過ぎました。

でも、
「ここで死なれたら、『私のせいで死んだ』みたいな変な罪悪感が残るし...。昔話にも、女の人が、こんにゃく一枚で彼岸に渡れなかったらしい話もあるし...。ええい、ままよ!」
彼女は、気合を入れて、きびすを返し、彼の元へ戻りました。
「どうされました?」
取り敢えず、相手を刺激しない様に、第一段階は丁寧に尋ねました。
周りの人達は、「正気かこの女!?」状態です。
まあ、色々ある、この御時勢ですからね。
彼は、消えそうな声で答えました。
「腹が減って、力が出ないよ...。」
彼女は、思わず、ズッコケて、ツッコミかけます。
「小学生かよっ!」
さまぁ〜ず三村さん迄とは、言いませんが。

そして、目の前にあったコンビニで、
おにぎりとお茶を買い、彼に渡しました。
彼は、ガッツこうとしますが止まっています。
彼女は、尋ねます。
「もしかして、開け方をご存じないのですか?」
「はい、お願い致します」
彼は、お辞儀をして、おにぎりを高々に渡します。
彼女は、
「どこまで、手を焼かすんじゃい!」
と言いかけて、飲み込みます。
一応、大人ですから。

彼は、改めて、ガッツいて満足し、腹をポンポンと叩き、言いました。
「あー、生き返った。久々に美味い飯を食べた。」
彼女は、胸のつっかえが取れたので、
「良かったですね。」
と、言い残し帰ろうとします。
「待ってくれ!何か、お礼がしたい !!」

彼は叫びます。
彼女は、
「お気持ちだけ、いただきます。」
と去りました。

 
次の日、家路を急ぐ最中、声を掛けて来るものがいます。振り返ると昨日の彼でした。
「昨日のお礼をさせてくれ」
彼女は、面倒臭くなり、言いました。
「ならば、いつ終わるか判らない愚痴を聴いてもらいます!それが出来ないなら帰れ!」
彼も、引きません。
「望むところだ!」
その途端、彼女は、堰を切った様に怒濤の愚痴を吐き続けます。仕事、彼氏、親、友人関係、などで腹が立った話を。
「これこれしかじか、でさぁ...。」
すると彼は、彼女の目を見て、本当に聴いています。
「かくかくうまうま、かぁ...。」

最後まで吐き切った後、しばらくして、可笑しくなった彼女は、吹き出してしまいました。
「どうした!?頭でも、打ったか?」
彼は、心配して、叫びます。
彼女は、笑い泣きしながら言いました。
「失礼しました。まさか、真面目に、本当に、見知らぬ方に、聴いていただけるとは、思いませんでした。ありがとうございます。私も、真面目に貴方の愚痴を聴きます。どうぞ。」
彼は、呆けたかと思うと、ブワッと泣き出しました。

彼女は、
「あーっ、本当に失礼な事をすみません。」
彼は言います。
「いや、違うんだ。俺の話を聴いてくれるのが嬉しくて。」
話を進めてみると、
「出雲の神社で仕事しているんだけど、パワースポットブームに疲れて逃げて来たんだ。勝手だけど、地元の人も、町の人も、願い事ばかりで、真面目にお参りする人が少なくて...。仕事ばかりが増えて、余裕が失くなっていたんだ。」
と言いました。
彼女も真面目に聴きました。
「これこれしかじか、なんだよぉ...。」
「かくかくうまうま、ですねぇ...。」
最後まで吐き切った彼も、笑いながら言いました。
「本当に聴いてくれて、ありがとうございます。」
そして、なぜか、他愛ない話で談笑。第2回戦へ。
 
やがて、夜が明け、
「ヤバっ!仕事!ありがとうございます。楽しかったです。」
「こっちも、こんなに話すのが楽しいなんて、久しぶりだ。本当に、ありがとう。」
とお互いに感謝して去りました。
 
彼も出雲に戻りました。
そして、何か清々しい気持ちになりました。
天照大御神に反省文を書かされましたが。
 
これが本当の意味で「話せば楽になる」かもしれないですね。


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