ある男が所有している森は、途轍もない金額と引き換えに手に入れたそうです。
しかし、彼は手入れをしないどころか、自身を含め一切の立ち入りを禁じています。
彼は、その森に入る道のそばで、もう何十年も、住んでいるというのに。
その森へ入ろうものなら、例え、何も知らぬ旅人から、貴い身分の者まで、容赦なく叱りつけました。そこまでの徹底ぶりです。
もちろん、周りから、変わり者扱いを受けています。
それでも、周りからの反応など気にも留めず、今日も森に入る道を見ています。
どんな言葉をかけても、彼の返事は決まっていました。
「ここは、あの二人の場所だ。」


一 出会い

彼が、まだ少年でいた頃、この辺りは国境いで、二つの国がありました。
どちらの国が何という名で、どちらが何という名の王が治めているなど、少年には、どうでもいい話でありました。幼い少年は、友達と遊ぶ毎日が楽しいだけでした。
「ごはんよ。帰ってきなさい。」
「ちょっと待って、お母さん。まだ遊び足りないんだ。」
少年は、ビー玉、童謡、かけっこ、などに夢中でした。学校から帰って来ては、カバンを放りだして、友達と遊んでばかりでした。

ある日のことです。
森の近くに、二人の少女を見かけました。一人は黒く、もう一人は金色の、長い髪をなびかせた少女で、白いシフォンのドレスを着た、水が透き通る様な美しさでした。よく見ると、同い年ぐらいでした。この辺りでは見ない顔です。新しく越して来たのかと思い、声を掛けました。
「やあ、はじめまして。最近、越して来たの?」
すると、黒い髪の少女が、キッと睨みつけたかと思うと、急に微笑み出します。
「どうして、私達じゃない人がいるの?家に帰りなさい。」
「そうよ、私、怖い。」
金色の髪の少女は、なぜか怯えています。

少年は異質な空気を感じました。
二人の目には周りが全て敵であるかのようでした。それは飽くまで例えです。
多くの人は、久しぶりに会う友、新しい友、恋などを求め、いろいろな人に声をかけますが、二人の少女だけは、完全に別の世界に住んでしまっているのです。

人というモノは、社会で生まれて、社会で育ち、社会で死んでいきます。それを繰り返していくうちに、「人間は社会生活を営んでいる」と少年は考えていました。
しかし、二人の少女の目に映るものは、お互いの姿のみでした。まるで、社会を拒んでいるかのようでした。そして、少年は二人の少女に気圧され、帰る事にして走り去りました。


二 森と二人の少女

その日から、少年は、二人の少女の事を考えるようになりました。
学校が終わると少年は、急いで走り出しました。驚いたのは周りの友達。
「みんな、ごめん。用が出来た。」
友達に理由も話さず、少年はその場から離れました。
行先は決まっていました。

森の外での観察をしていると、いろいろな事が分かって来ました。
二人の少女は、一つ屋根の下で暮らしていました。丁度、国境いを挟む所にある小さな家でした。両親らしき人を探しますが見当たりません。大人自体がいないのです。
でも、二人の少女の顔には悲しみは感じ取れず、姉妹という訳でもなさそうです。
その証拠に、わざわざ、お互いに「わたしの」「愛する」という言葉を付けて呼び合って、お互いに織り物を贈り合っていました。
もちろん、毎日、森へ遊びに行っていました。本当に二人の少女だけです。
まるで、国境いの様にで何物にも属さない事を象徴している様でした。
たった、二人の生活で、飽きることを知らないのでしょうか。


三 機織り

一年が経ち、少年は13才になりました。二人の少女は相変わらずです。
でも、どこか、うっすらと陰がある様に感じていました。
ある日、二つの国が「友好を深める」という目的で、機織りの腕を競う催し物が開かれました。腕を競うとあって、優勝者への賞金目当てに、多くの職人の女性がやって来ました。少年の母親も参加すると言い出し、荷物係として連れて行かれる事になりました。

母親と会場に着いてから、幾人もの出場者を見て、驚きました。
出場者の中に、あの二人の少女がいたからです。
「どうして、こんなところにいるんだ?」
森で二人だけの世界で暮らしているはずです。
いざ、催し物が始まると、もっと驚きました。二人は美しい所作で織ります。人々の目には、二人の見た目からは、想像できないほど、美しい織り物を織り上げる姿が、確かに映し出されていました。
少年は、贈り合っていた織り物、着ているモノ全てが、二人の少女の手で織られた物と判りました。着ているモノと織り物が、違わぬ美しさを放っていたからです。二人の少女のお互いへの愛の深さが、怖ろしくなりました。
そうこうしているうちに、二人の少女は、甲乙つけ難く、そろって優勝しました。


四 悲報

突然、その場にいた二人の国王が、言い放ちました。
「そなた達は、とても良い腕をしておる。我ら王族の衣服を専門に織って貰いたい。それから、朕の王子、隣国の王子が、見初めて妃に迎えたいと言う。これから、頼むぞ。」
美しい二人の少女が妃になるとあって、群衆は沸きました。

しかし、少年は「何とかしなければならない」と考えました。あの二人の少女の『世界』が壊れるからです。

更に、二人の国王が言い放ちました。
「婚礼は、明日行う。」
二人の少女は、
「この上なき幸せです。」
口を揃えて優しい微笑みで返します。
少年からは、どう見ても悲しみに暮れていました。
二人の少女は付け加えました。
「これから妃になれば、好きな時、好きな場所、で会えません。最後の一日を語り明かす事をお願いします。」
二人の国王は、不審に思いながらも、二人の少女の願いを許しました。


五 異変

次の日、いつもと違い、日が昇るかどうかの時間に、森へ行きました。
そこには、二人の少女が横たわっていました。
少年は心配になり、叱責されるのも承知で、近寄りました。

見れば、織り物が、肩に掛けてありました。それは、大空へ羽ばたく二羽の鳥で、黒と金が織りなす見事な物でした。今まで織られた中で至高の物でした。

更に見れば、、絹や木綿、麻でもありません。二人の少女の髪でした。
少年は驚き、双方の顔を見ました。
眠っていたなどでは、ありません。青白くなっていました。
幸せそうに、手を取り合い、微笑み合いながら。

「何があったんだ !?」
少年は、どうして良いのか判らず、意味もなく、周りを見渡しました。傍には、一冊のノートがありました。二人の少女の物の様です。してはならないと思いつつも、おそるおそる、ノートを開いてみました。


六 二人の少女のノート

ノートを開くと最初のページには「わたしのもの」から始まり、「愛するもの」への終生変わらぬ想いが書かれてありました。「愛するもの」は、その慈愛の言葉に応えていました。
「わたしのもの」は黒髪の少女から金髪の少女、「愛するもの」は金髪の少女から黒髪の少女、の事とすぐ判りました。
そして、木漏れ日での読書、花摘み、童謡、かけっこ、語らい。
二人の少女だけの不可侵領域が、そこにありました。
読み進めると、少年の事が綴られてあります。少年は目を見張りました。

「よその物がきてから全てが変わった。よその物が私達を興味本位で観察する。そんなに社会に属さない私達が珍しいのか。
その物が知らぬ、別のよその物が来た。妃になって、象徴として暮らせと言う。
断っても何が不満なのかと、判らない怒りを露わにした。
果てには、森を失くすと言う。私達は、とりあえず、妃になる旨を承諾した。」

最後に次の事が綴られ終わりました。
「わたしのものから愛するものへ、愛するものが応える、最後の贈り物を捧げます。」

二人の少女にとって、少年は破滅の始まりだったのです。
少年は、悔やみますが、どう仕様もありませんでした。
せめて、二人の最後に残そうとしたモノを守ろうと穴を掘ります。墓を作りました。墓標はありません。いいえ、森そのものを墓標にしたのです。ノートも埋めました。
そして、夜が開ける前になんとか帰りました。


七 日常の暮らし

帰ってからは町は大騒ぎです。妃候補がいなくなったと。しばらくして、国民は逃げられたと考え出しました。少年も、そういう事にしようと噂をします。二つの王族は権威が堕ち、国は失くなりました。

少年は、学校を辞めて働く事にしました。親は驚きました。問われても、
「森が欲しいから」
の一点張りです。理由はもちろん言いません。
親の反対を押し切り、働きます。
何とか、お金を工面して、森を手に入れました。
森に入る道に家を建て、暮らし出します。
今は、好奇の目でなく、罪滅ぼしとして、二人の少女を思うのでした。

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