誕生日プレゼントなに贈るか決めた? 考えているとこー。やっぱりアクセサリー? 1年たったからどんなのが好きかはわかったつもりだけど。悩むよぉ。
 誕生日をむかえるのは、今ここにいない彼女。午後に講義をとっていない彼女は、購買の好きなパンが売り切れだとわかるとすぐに帰った。そして友人二人の議論は続く。
 肌白いから何色でも似合うんだよねぇ。青系はいっぱい持っていそうだからあえてリボン、オレンジとかどう? かわいいだろうなぁ。

「ゆみは? もう選んだ?」
「まぁね。すぐ決まったよ」

 ひとめぼれ? きっと似合うのを選んだんだろうなぁ。年季がちがうもんね。

「年季って! たしかに長いけどさぁ」

 本当はちょっと違う。男子と歩いているところなんて見たことも聞いたこともない彼女が、男の子とふたりで街を歩いていて、そして笑っていたから、贈るものを決めたのだ。彼女はわたしの目の前を横切りながら、左側を歩く彼に笑いかけた。彼の影からのぞくふわりとした笑みはきっとわたしたちしか知らなかったものなのだ。



 誕生日は平日で、最後の講義のあとにやっと彼女を捕まえた。放課後の講堂で包みを取り出す。

「はい。おまちかねのハッピーバースデー。19おめでとう」
「ありがとう」

 受け取って、彼女はあの時のように笑う。しかしプレゼントの中身を撫でた感触にその表情がかたまった。なにこれといわんばかりの怪訝な顔になる。わたしたちの定番はアクセサリーだった。

「変なものじゃないよぉ。口紅」
「あけていい?」

 わたしは頷いて、リボンを解く細い指をみつめる。ピンクゴールドのケースの蓋を外して覗き込む色は、

「真っ赤。使えるの?」

 彼女がメイクをほとんどしたことがないのはもちろん知っている。

「冒険。だって10代最後の夏よ?」
「似合うかな」
「気合いでどうにかなる。……うそうそ、絶対似合うよ」

 ますます眉間のシワが深くなったのを見て笑いながら付け足す。それでも唇が描くのはへの字だ。

「もう、じゃあ今からつけてあげるよ」

 言いながら彼女の手から口紅を抜き取り、左手でかばんからポーチを出す。

「ここで?」
「そうそう」

 彼女は人のいない講堂をいちど振り返ると、頬にかかっていた長い髪を耳にかけた。ポーチの中のリップブラシは昨日替えたばかりだ。焦げ茶のブラシに赤がよく映える。横向きに座っていた体を後ろに向け、彼女の座る机に肘をついた。今日の彼女の服はデニムのパンツにブラウス。うん、大丈夫。そして身を乗り出し、左手を彼女の顎に寄せた。もうすぐ夏なのに冷たい。わたしは少し小さくなった瞳に向かっておどける。

「では、失礼します」

 彼女の表情もやっとゆるむ。そして彼女の目はわたしの指を追い始めた。動かないでね。唇、力抜いて。そう。待って、もう一度。



「意外と、薄い」

 鏡を支えるわたしの指から力が抜けて、唇をみつめる瞳も鏡と一緒に揺れた。あぁ、気に入ってもらえた。

「綺麗な色だね」

 唇を左手の人差し指でなぞりながら言う。

「ありがとう」

 彼女はあのときと同じ笑顔だ。

「うん。きれいだよ」

 色だけじゃなくて、もちろん彼女が。
 あの日彼は顔をわずかに赤らめていたようだった。それを隠すようにこちらを向いていて、彼女はそれを見て笑っていた。だから口紅を選んだのだ。彼女の言葉で、彼がもっと染まってしまったらおもしろいな、と。

「でかけるときとか使ってね。仕舞っておくのは無しだよ?」

 彼女は虚を付かれたかのように目を大きくさせる。そしてすぐまた笑顔になった。

「善処します」
「それならよし。少し賑やかになってきたね。移動しよっか」

 サークル活動で使うのか人が講堂に集まり始めていた。体をひねり、ポーチに鏡を仕舞う。

「ほんとに、ありがとう」

 紅い唇に染められた言葉がわたしの緩く巻いている髪の毛の間からするりと耳に入り込む。

「大事に使う。さすが、ゆみ」

 まっすぐな目に捉えられたわたしの頬も、紅く染まった。
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