ふと思い至ってスマホを手にした。ベッドの上に寝そべりながら画面をタッチすると、明るくなったそこに、笑い合う男女の写真が現れる。ホーム画面だ。二人の背景は郊外の某アトラクションパーク。よく二人で行っていたっけ。そう思いながら画面を横にスクロールすると、便箋の形をしたアイコンが現れた。アイコンの片隅には、未開封メール数を告げる三桁の数字。迷惑メールにはほとほと迷惑している。
 今日もその数字に変化はなかった。新着メールはないらしい。迷惑メール以外のメールが来なくてつまらない。スマホを枕元に放り出す。そのまま大の字に仰向けになった。
 目の前には光を点していない蛍光灯。部屋はスマホの画面とは対照的に薄暗かった。もう夕方だろうか。そんなことを思いながらぼんやりと天井を見上げる。することがなかった。
 こんな時、昔の私は何をしていたっけ。本を読んでいたのだろうか。漫画だったっけ。いや、外で散歩していたかもしれない。違うかな、ネットサーフィンしてたかな。思い出せなかった。二人が恋に落ちる前の私なんて覚えていない。遠い、遠い昔の話。
 何も考えずに伸びをした手にスマホが当たる。何も思わずに持ち上げて、仰向けのまま画面をタッチした。再び明るくなる画面、浮かび上がる二人分の笑顔。
 二人はおそろいのTシャツを着ていた。両手を大きく広げているアトラクションパークのキャラクターが背中にプリントされたTシャツだ。二人が楽しそうに互いの体を密着させているせいで、キャラクターまでもが仲良く両手をつないでいるように見える。
 ふふ。
 口元から笑みがこぼれた。ああ、なんて良い写真だろう。我ながら最高傑作。二人の表情をとても良く切り取っている。
 とても、可愛い。
「……素敵ね、二人とも」
 画面の向こうの二人へ送る大賛辞。ずっと憧れていた風景。
 ずっと、ずっと見たかった光景。
「素敵よ、姉さん、兄さん。本物の恋人みたい」
 画面のさらに向こうへと歩いていく二人の背中。幼い頃からずっと見ていた二人の思い。
「素敵」
 薄暗い部屋の中に浮かび上がる幸せそうなカップルの写真。これが、二人がずっと叶えたかった夢の光景。私が見たかった夢の光景。
 画面を横にスクロールして、メールボックスを開いた。少し下にスクロールして、とある開封済みメールを開く。
『もうやめて。お願い』
『光太とのこと、内緒にしてくれるんじゃなかったの? 信じてたのに』
『どうして放っておいてくれなかったの?』
 単調な文章からあふれてくる怒り。それを眺めて今日も私は唇で弧を描く。
 素敵、素敵。ねえ、知ってる? 姉さん。あなたたちの写真をお父さんとお母さんに見せた時の反応、すごく良かったんだよ。私、あんなにわくわくしたの生まれて初めてだった。
『姉さんと俺のこと、お前どこまで知ってるんだ?』
『やめろって言ってんだろ死ね』
『ふざけんな』
 兄さん、知ってた? 私ね、まだお父さんとお母さんに見せてない写真、たくさん持ってるよ。動画もあるの。二人がこっそり一緒に住んでるアパートの寝室にカメラを隠してあるんだ。とっても良い作品がたくさん、私のパソコンに眠っているの。
 ねえ、素敵でしょう? 笑いが止まらないくらい素敵でしょう?
 メール画面を閉じて、ホーム画面を見つめる。私の前では決して見せない幸せそうな二つの笑顔。二人からのメールはいつ来るだろう。
 便箋のアイコンの上の数字はまだ増えない。新着メールはまだないらしい。まだかな。まだかな。ずっと待ってるよ。ずっと。
 あなた達のメールが届くたびに笑いが止まらなかったの。ねえ、もっと送ってよ。私をもっと楽しませてよ。
 ねえ、私の愛しい人達。

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