その知らせは珍しくもなく電報で届いた。簡潔な文字の羅列に、私は内容を読み取るのに数分を要してしまった。
 あの子が死んだ。
 親しい子だった。優しい子だった。漢字が読めない、近所の奥さんが子供の世話で困っているようだ、畑を烏が荒らしてしまう。女学生の頃から、そういった雑談めいた相談も、しっかりと聞いてくれた。時々家の庭に来る猫にミイと名前をつけたの、とか、今年のトマトは赤くて可愛いわ、とか、そんなどうでもいい話を笑って聞いてくれた。
 歯を見せて笑ってくれた、そんなあの子が好きだった。

「悲しいね」

 見合いをしてから一年も経っていない夫が、そう言って一緒に泣いてくれた。それでも心は晴れなかった。近所のハナさんの家で借りた電話で、あの人の死は病気によるものだと知った。肺炎だという。

「お義母さんと同じだね」

 夫が言う。

「僕の姉さんも肺炎だったよ」

 外からは私の泣き声に負けないよと言いたげに、蝉の声がたくさん聞こえていた。よくある夏の音だった。



 とある日の深夜、物音で目が覚めた。扉を叩く音だった。玄関に出た夫に、来訪者は告げた。

「おめでとうございます」

 汚れた制服を着て、きっちりとそう言った青年に、私は立ちすくんだ。
 赤い紙を受け取った夫は、たった一度、彼に頷いた。どんな表情をしていたのはわからないけれど、大きな背中はいつものようにたくましかった。



 洗濯日和の良い朝だった。けれど村の誰もが、家事の何もせずに、外に集まっていた。見知った子供達は日の丸を大事そうに持っていた。

「それじゃあ」

 見慣れない服を着た夫は、ただ一言そう言って、私と私達の家に背を向けた。いつもは怒鳴られながら走り回っている子供達が、今は大人しく日の丸を振り回した。近所の人達が物言いたげな顔で、歩き去っていく夫の背中を何度も叩いていた。

「村の誇りじゃ」

 そんな村長の声が、朝日の輝きの中から聞こえた。



 七十年前の夏の盛り、蝉の鳴く暑さの中でラジオの向こうから聞こえてきた尊いお方のお声は、今でも耳にへばり付いている。それは、遊びに来た子供達がゲームに夢中になる静寂の中で、はっきりと繰り返されている。私は今日も、猫の背中を撫でながら、頭の中で流れるそのお声に耳を傾けている。
 ミンミン、と外では蝉が鳴いている。その声は昔のものと変わっていない。あの時の蝉がここまで飛んできたのだろうか。蝉は時を越えるのだろうか。そんなふわりとした想像に一人微笑む。

 悲しいね。

 蝉の声に紛れて、誰かがそう言った。そうでしょうか、と私は答えた。涙は出てきません。蝉のように泣き叫ぶこともありません。静かな夏です。そう心の中で言って、私は目を閉じる。

 ――少なくとも、寂しくはあるけれど。




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