バンボラの恋



人が人に与える言葉はなんとも無責任で頼りがいのない。相手が発した言葉を私が覚えていたとしても向こうが忘れてしまっていることこがある。私もそういうことがあるなら一概には相手を非難できないけど、でも、忘れちゃいけない言葉ってあると思うんだ。言っちゃいけない言葉ってあると思うんだ。

「好きだよ」

薄い唇を歪ませて口角を上げる目の前のこの人は私の心内を知っているくせにいつだって私を弄ぶようなことを言う。あぁ、もう、なんでだろうだなんてそんなこと考えても無駄なのだ。考える前に私は彼の言葉に頷き、そして彼の思い通りの行動をする、ただ、それだけ。

キタナイ。

ふと頭の中を占めるひとつの単語。私のことを想っている訳じゃあないくせに、私のことなんて貴方の頭の中に1mmもないくせに。私を理由するためだけに私が欲しているその言葉を安々と言ってそうやって自分だけ楽しんで、キタナイ。私以外の人にも同じコト、しているんでしょう?

「近寄らないで」

ゆっくりと一歩後ろに下がった。もう一歩、そう思ったのに彼は私との距離をつめる。いつもは胡散臭い笑い方をしているのに真顔、まがお、無表情。さっきまで上がっていた口角は真っ直ぐになって目は鋭く細められた。じりり、微かに縮められていく隙間、後ろは壁。逃げ道は無し。ドン、と背中がぶつかれば更に追いつめられていく。

「なんで」

なんでってそりゃそうでしょ。

「だって」

私は貴方と居ない時も貴方に会えない時もいつだって四六時中貴方のことを考えて心を痛ませているのに貴方は私のことなんとも思っていないし私のこと見てくれてなんかいないじゃないの。

言おうとした言葉はぱくり、彼によって食べられた。

「許さないから」


背景素材:水没少女
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