28.5《magician side》
真木さんが、少し緊張した口調で言った。
「……俺はね、この高校出身なんだ」
「え……じゃあ、先輩!?」
「夏休みだからいろんなところ旅してるってのは、半分本当で半分嘘。あんまり仕事がなくて、すがるところもなく地元に帰ってきたのね。でも俺には写真しかない。そんなとき、ここで君に会ったんだ」
真木さんがうつむいた。長いまつげが印象的だった。
「『やりたいこと』と『やるべきこと』に板挟みになっている君を見て、俺は何かと言ったと思う。でも実際、あれは俺自身に対する言葉でもあった」
真木さんは、カメラを取り出してそれをじっと見つめた。とても優しくて、愛情のこもったまなざしだった。
「今日の君たちのダンスを見て、もう全部が吹っ切れたよ。俺は地元で、もう一回はじめからやり直すよ。でもふりだしに戻ったんじゃない。今までの自分を無駄にはしない」
前を向き直った真木さんのまなざしは真っ直ぐで純粋で、素敵だった。そんな真木さんに、私は憧れた。
「頑張ってください。応援します。なんてったって真木さんは、私の[魔法使い]ですから」
「え?どういう意味?」
こうして二人で楽しく話している途中に、携帯が鳴った。[王子]から連絡係を通してきたメールみたいだけど……。
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