02 《magician side》

 あたしは[魔法使い]になったと知った頃に一つ恋を失った。

 中学の頃から付き合っていた彼氏と別れた。多分、フられたってことになるんだと思うけど、不思議と悲しくなんかなかった。「時間の問題かな」なんて、まるで他人事のようにさえ、思っていた。


『なんで休みの日なのに会えないの?』


 あたしの通う高校は割と進学校で名がとおっている上に、行事がやたらと盛んだ。平日・休日を多く費やし、その分長期休暇が犠牲になる。今年の夏休み(もうすぐだ)は一ヶ月も無いし、冬休みは10日間あるかないか。一山いくらの受験生としては、その忙しさをかいくぐるように空いている時間を勉強に充てなければならない。今までにコツコツと積み上げてきたものがないだけに、夏休みを目前にただ焦るばかり。遊ぶ暇なんて、ないのだ。

 そのことは何度も彼に説明してあるはずだ。大学に入れば時間ももっと自由に使える。いつでも会えるようになる。だから今は自分の進路に集中させて欲しい、と。繰り返し丁寧に、返信を打ち始める。最近こういうやりとりが多くなってきた。『大学に』と打てば『入れば』『時間』『が』『沢山』『できる』『よ』という風にどんどん予測変換ができるようになった。返信は次第に早くなる。


『また勉強かよ。俺と大学、どっちが大事なの?』


 あたしは何も考えずに『勉強は大事だよ』と返信した。正確には、何も考えなかったのではなく、考えることも面倒臭いと思った。『勉強は大事』なんて。まだ受験勉強らしい勉強もしていないのに。


『ごめん、別れよう』


 あたしたちの関係はこんなにも簡単に、崩れて終わった。あたしはそれを見て、パタリと携帯を閉じた。



そして小さく、ため息をついた。





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