目覚めし天女

 「ようやく、ミタマ様に手柄を立てられた。」
 獣たちは、ただならぬ顔つきでぶつぶつと呟き、ひし形に織られた魚を捕獲するときの地曳き網を漁師のように威勢良く放ち、百合子や少女のことを生け捕りにしていた。
 その直後、百合子の胸元のあたりできらきらと光が輝いた。
 それは、彼女が夢で見たときと同じく、茜色のまばゆい光を発し、まもなく大きな柱の炎をおこして身体を包み込んだ。
 「熱い、痛い。身体の中身が焼け焦げそうだわ。」
 百合子は、全身が天上世界にのぼらんとする炎の柱に包まれ、ピリビリとした激痛に見舞われた。
 そんな中、彼女は女の子を地面に伏せさせて石の上にて修行をする尼のような表情で耐え、苦しげに言葉を発した。
 このとき、百合子の脳裏には、すばる王朝の姫・タキリとして生まれてから獣に国を追われ、地球に来て芳夫・美香の二人に保護されるまでの記憶、幼馴染らしき少年の姿が走馬灯のように駆け巡った。
 獣たちの一部は、百合子たちに近寄ろうと接近したものの、そそり立つ炎壁の餌食となり、姿は瞬く間に無と化し、黒々しい灰に変えていった。
 やがて、壁のごとく、百合子たちを包んでいた炎は発火から五分ほどで収束した。
 二人のうち、少女は不思議なことにケガや火傷すら負っておらず、百合子に抱かれてぴんぴんとし、近くの建物の物陰に母親をみつけ、急いで避難した。
  そして、百合子は、茜色の和服に似て、縁の部分がピンク色、肩から股下まで一体となった衣、衣の縁・衣の色と同じ羽衣、腰に果物のみかんの色をした帯の出で立ちとなった。
 また、茜色の地で七つ星の紋章らしきものが描かれた冠、胸元には同色のあでやかな宝石と首飾りを身にまとい、右手にくろがねのまっすぐとした鉄剣、肌はうさぎのように白く、髪は栗のような茶色、目の瞳は茜色になっていた。
 そう、百合子というごく普通の少女が殻をやぶり、正当なすばるの王位継承者にして指導者、天女のタキリとして目覚めた瞬間であった。
 その姿は、まるで、目の前に慈愛の女神が降り立ったかのようであった。
 さて、
 「よくも、かよわき私や女の子を捕まえ、思い出のあふれる故郷の街を掌握しようと考えましたね。そのようなことを考える人たちには、罰を下さなければなりません。」
 百合子こと天女タキリは、残っていた獣たちに対して怒りにも似た気持ちを言葉や顔に表した。
 続けて、
 「いぁ!!」
 タキリは、てかてかと輝くくろがねの剣の刃の部分に青々しい炎の柱をつけ、次々と獣に対して反撃をした。
 これを見計らうように、真紅色の羽衣や着衣、飾り物を身にまとい、火縄の銃に剣を足した武器を両手に持つ別の天女が現れた。
 その天女は、顔はタキリに少し似て美人であり、ハートやmの字のような前髪の分けかたと腰帯の結び方がタキリと異なるのが特徴として見られた。
 「タキリ姫様。お目覚めになられましたか? 助太刀として参じました。」
 真紅の天女は、生真面目な表情を見せてタキリに言葉を掛けた。
 その天女は、身体をふわふわと宙にうかせ、次々に手持ちの火縄銃を連射させて獣に攻撃を仕掛けた。
 「あなたは、たしか、従妹のトヨタマかしら? お久しぶり。」
 タキリは、頭の中にある記憶というパズルのピースを考えて探し出し、懐かしげな様子で顔を空の方に向けて真紅の天女、母方の従妹・トヨタマに尋ねかけた。
 その際、タキリはトヨタマに間語というテレパシーの一種の言葉を用いていた。
 「ええ、その通りです。姫様、お久しぶりです。」
 トヨタマは、星を思わせるきらきらとした瞳で地面にいる従姉のタキリを見つめ、間語にて答えていた。
 「ぎゃあ、助けてくれ。タキリとトヨタマにやられている!?」
 獣たちの残党は、彼女たち天女の炎の剣や弾の雨を受け、不意打ちに合ったように逃げていった。
 「トヨタマ、やった。私たち、獣を懲らしめることが出来たわ。」
 タキリは、顔を上に向けて嬉しそうな気持ちを顔のキャンパスに表し、羽衣にて身体を宙に浮かせているトヨタマに語りかけた。
 「姫様。私たち、頑張りましたね。」
 トヨタマもまた地面に足を付け、うれしさの満ちた顔を見せ、目と鼻の先にいるタキリに答え返した。

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