リンゴーン、リンゴーン
小さな式場でならされる結婚の鐘。望まれた望まない結婚。
――ダレカ、タスケテ。
「いくぞ、洋子。」
父親の有無を言わせない言葉に引きずられるように、白い花嫁は歩き出す。心の中で涙を流しながら。
一歩
また一歩
美しい赤色の上を娘は歩く。まるでその赤が血の色であるかのように。
ああ、私は闇の中に落ちていく。
――タスケテ。マタ会エルンデショウ? 私ノ光……セン。
「そうやって、早く呼べばいいんだ。僕はいつでも君のそばにいるんだから。ヨーコ。」
どこかから、声が聞こえた。そう、娘の上から。会場は悲鳴に包まれた。人に害なす存在、悪魔がその場に忽然と姿を現したからだ。
「僕がそばにいるというのに、君はそんな色のドレスを着るのかい?似合わないね。」
会場の混乱をよそにとぼけたように悪魔はパチン、と指を鳴らした。とたんに娘の着ていた純白のドレスは漆黒に紅蓮の羽の飾りのついた豪華なドレスに代わる。
「お前、いつの間に悪魔なんぞと…!」
怒りに震える父親の姿を、逃げ惑う参列者の姿を空中から楽しそうに眺めている悪魔が口を開く。
「ヨーコはボクと契約したわけじゃない。ヨーコはボクの"トモダチ"だ。」
「"トモダチ"は助け合うものなんだろう?」
ケタケタケタ、まさに悪魔そのものの笑みで、悪魔はそう笑った。そして、中空から娘の前に降り立つと、娘に手を差し出してこう言った。
「君は"友情"と"トモダチ"を僕に教えてくれた。今度は"愛"と"コイビト"を僕に教えてよ。代わりに、僕が君のそばにいるからさ。」
End.
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時よとまれ、汝はいかにも美しい。