24 《magician side》
眠れない夜になった。頭の中で繰り返し、踊っている自分をイメージする。でも、不安なところでいつも、失敗する自分を思い浮かべてしまう。
北島君からのメールが届いたのはそんな時だった。北島君の緊張感、そして劇に対する万感の思いがひしひしと伝わってきた。
『……この劇が「劇」としてあるのは、他でもない、皆さんのお陰です。ありがとう。
僕の仕事は一足先に終わりです。僕はもう、半分観客みたいなものです。衣装を着て夏の空の下でみんながどんなに輝いて見えるか、僕は一人の観客として楽しみです。』
北島君がどれだけ真剣だったかは、宇藤君も小田原さんもすっごくよく分かっていた。だからみんなも一生懸命取り組んでいくことができたんだ。
『そして最後に僕に残された仕事と言えば。
“頑張れ。この劇「シンデレラ」は僕たちだけのものだ。”
……という言葉を送ることだけなのです。』
最後に北島君のアドレスが載っていて本文は終わっていた。
何を言ってるんだろう。
北島君は、どうしてこんなしみったれたことを言ってるんだろう。
ちょっとだけ残念だったから、あたしは返信するためにメールを打ち始めた。
『To:北島君
北島君は、最高の[脚本家]です。北島君が台本を書かなかったら、こんなに素敵な劇はまずこの世に存在していません。
明日という短い祭りのためだけに、あたしたちはバカみたいに練習し続けてきたし、だからこそ時間もあっという間に過ぎていった。でもあたしは後悔しないよ。あたしの中で、この劇が完成することが一番の目標だったからね。
だから、ありがとう。そして最後まであたしたちの監督でいてください。あたしたち、一生懸命頑張るから』
「送信、っと」
パタンと携帯を閉じた。すると急に猛烈な睡魔に襲われて、あたしはそのまま気を失ったように眠った。
back TOP next