20 《prince side》
なんかワイワイと[魔法使い]の男子たちが話し合っているようだ。俺はその中に北島がいるのを見てとった。北島に劇のことを聞きたいことがあったから近寄ると当然、会話の内容も聞こえてくる。
「……キツイんだよね、このダンス」
「そうそう、この衣装で体動かすので精一杯」
「北島は全然ダンスないからいいよなー」
彼の肩をポンと叩くと、ビクッと驚いて勢いよくこっちを振り返ってきた。正面に見える北島の表情が、人のいい笑顔のまま凍りついていた。
「北島はお前らのダンス並の仕事してんじゃんか、なあ」
北島は少しだけ目を見開いた。そして、「……そんなことないけど」と謙遜した。顔はすっかり青ざめてしまっている。
「ねえ、北島君」
呼びかけたのは、杉澤だった。
「あたし、まだ笑顔足りないよね。……頑張るから」
そう言って杉澤は、拳を前に突き出した。杉澤はもっとクールでドライな印象だったので、言葉の優しさが思いがけなく心に響いた。
当の北島は精一杯の薄ら笑いを浮かべて、曖昧に二度頷いただけだった。
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