第十二話 笑み
ふわり、と。いつもでは考えられないほど優しくシレーナが微笑んだ。
彼女の笑みは人魚姫のように穏やかで、そして優雅だった。それはもう聖母のようにも見えて、俺はアホ面を晒したまま思わず見とれてしまう。
今まで俺を縛り付けていたタブーや大罪の鎖がシレーナの言葉1つで消えていく。
俺はここにいてもいいのだ、存在していてもいいのだ。己が何者であったとしても。
そういってもらったようで、心の奥底にあった暗い闇が少しずつ無くなっていく。
細く、小さな手が俺の冷えた手に触れる。無意識に握りしめていた手が解かれてシレーナの体温が伝わってくる。
安心して、とシレーナは言う。
「ありがとう、な」
咄嗟に出た言葉は俺らしくないカッコ悪い言葉だったが、今はシレーナのことでいっぱいでそんなことどうでもよかった。
愛しい、と。心が叫ぶ。あぁ、これが愛なのか…と、他人事のように思いながら。
これを手にいれるために両親は禁忌をおかしたのか、と。
両親の思いがわかった気がした。愛してしまえば禁忌も大罪も関係ないのだと、ただあるのは想い人への愛なのだと。
「貴方は、私にいろんなことを思い出させてくれるのね」
視線を手に落としていたシレーナが、俺の目をみてまた微笑む。
そういえば、と。昔読んだおとぎ話に王子が姫の髪にキスをするシーンを思いだし、これくらいならいいだろうか…と、絹のような金髪を少し手に取り、口付けを1つ。
「シレーナは俺にいろんなことを教えてくれるな」
そしていつものようにニヒルに笑った。
シレーナは俺に追い求めていた答えと人を強く想うことを教えてくれたのだ。
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