第十一話 三界
グルグルと頭のなかを思考が巡る。
天使と悪魔の血を引くもの。混血。
それは、何人たりとも犯してはならない最悪のタブー。
これはある程度自我が固まってきた頃に学舎で習う事柄で、よく神話や伝説に残っている。
この世界は大きく3つに別れている。
神や天使たちの領域である、天界。
我々人間が住まうこの地が、地上。
そして魔神や悪魔が統率する、下界。
この三界において共通する最悪のタブーとは、異界者同士の恋愛である。
先ほども言ったように、このタブーは神話や伝説に残っておりその多くは愛し合った二人の処刑という血濡れた終焉を向かえる。
また、異界者同士の間に子がいた場合"許されざる存在"として天使軍や悪魔軍に追われ、捕まえられれば最後処刑される。
この男は運よく生き延び、追われながらここにやってきた。
天使でも悪魔でも人間でもないからこの館に侵入することができた。そして現れたとき血濡れだった理由もこれで合点がつく。
目の前の男、私を見つめるルビーのような瞳が伏せられた。
「シレーナ、お前も俺を軽蔑するのか?」
「…多少、驚いたけれど…そんな程度で軽蔑なんてしないわ、馬鹿ね」
は?と呆けた表情をする彼にふふっ、と笑みが溢れた。可笑しい顔ね。
こんな風に表情豊かだったのはいつのことだったか、懐かしいような暖かい胸の思いが溢れて、こぼれて。
「貴方の存在を否定する理由なんて一つもないし、貴方の存在意義を根っから否定することができる人なんかいない。
タブーなんて私にとっては大したことないわ、私だって禁忌…タブーをおかしてここにいるのだから。」
そして、だから……と、何を思ったのか私は強く強く握りしめていた彼の手を包んだ。
驚くほど冷たい手に触れる。それは私の温度を奪って少しずつ暖まっていく。
「シレーナ……」
「だから、安心して。ここには貴方のことを軽蔑する人も否定する人も嫌う人もいないのだから」
「ありがとう、な」
彼と出逢ったばかりの頃では考えられなかった行動、発言の数々。
「貴方は、私にいろんなことを思い出させてくれるのね」
笑顔も、この暖かな想いも、人の体温も。全部全部。
この想いに名前を付けるには、まだ早いかしら。含み笑 いを溢すと未だに呆けた顔をしたバーンは、突然私の髪を少し手にとると口づける。
「シレーナは俺にいろんなことを教えてくれるな」
そしていつものようにニヤリと王子様のような仕草で、悪魔のような笑みを浮かべた。
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