第九話 桃源郷



 たった独りだけで暮らしていたこの館に、一人の男が現れた。

 数日前では考えられないような…そんな、とある出来事がきっかけで。



「おぉ、いいとこのお嬢さんは料理はおろか家事全般出来ないもんだと思ってたがな。
 世の中そうでもないらしい」

「何年ここで過ごしてきたと思ってるの?
 …料理くらいできるわ」


 それがお伽噺じみた"運命"だというのなら。

 この館での物語は、いったいどんな終焉を迎えるのだろう。


「そんだけ魔力があれば料理くらい魔法ですませてるもんかと思ってたんだよ」

「料理系の魔法は得意じゃないの」

「へぇ?ならシレーナの得意魔法ってのはなんだ?」

「……攻撃魔法」

「それは穏やかじゃないな」


 ヘラヘラと笑うこの男が……バーン・ラルクスが王子様かもしれないし、悪い魔法使いかもしれない。


「バ…バーン、の、得意魔法はなんなの…?」

「俺はな、幻想術だよ。幻をみせることができる。」


 はたまた、別のなにかかもしれない。


「なんならみせてやろうか?
 外の世界を。」


 例えば…そう。


「館の外を…?」

「あぁ、シレーナの知らない世界を。」


 私を深海から連れ出してくれる、美しい光だったり。

 眩い光はあたりをつつみ、強く瞳を閉じた。

 目を開ければそこに、


「俺の故郷に似たようなところだ、ここは。」


 色とりどりの花、風に揺られ花弁が舞いむせかえるような強い花の香り。


「すごい…」


 それは、彼の造り出した幻想への言葉なのか、それとも外の世界への言葉なのか。

 またはその両方なのか。

 無意識にこぼれでた言葉の意味は、自身でもよくわかっていなかった。



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