13.5 《prince side》
「原田っていうさ……友達が……言ってくれたんだ。お前とまた一緒に走れるのが、楽しみだって。俺、すごく嬉しくてさ……。俺もそう思ってるって、あん時は言えなくて。
父さんと住めるってことも、すごくいいと思うよ。父さんが俺のことを考えて単身赴任してるんだって聞いたとき、全然そんなん知らなかったから、すげえ嬉しかった。……すげえ悩んだ。
小中高と地元で暮らしてきて、陸上部とか原田みたいないい友達に会えて……上手く言えないんだけど……父さんのおかげでできた大事な友人なんだ。そいつともっと走りたい。
俺、父さんが遠くにいるって思ったこと、一度もねえんだ……」
母さんは柄にもなく涙目で、俺は柄にもなく号泣していた。
「男が泣くな。みっともない」
叱責に、顔を上げられなかった。
「……見ないうちに、大人みたいな口をきくようになったな」
その言葉には、言いようもない柔らかさを含んでいて、俺は顔を上げた。
「努力しなさい。努力して、自分の言葉に責任を持つことも覚えろ。それが、本当の大人だ」
ふ、と笑って父さんがそう言った。鼻がまたジーンと痛みだして、
「……ありがとう……」
俺はまた深く頭を下げた。
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