第七話 悪夢と過去




 バタン、と自室の扉を開けて小娘一人が使うには広すぎるくらいのベッドに倒れこんだ。



≪呪いに縛られたまま一人寂しく過ごすのか?!≫



 自分のことのように叫ぶ男の声が頭で何度も響いていた。

 あぁそうよ。今までも、これからもそう。

 ずっと独りで過ごしてきた。同じ日を永遠と繰り返し行き来して。

 そんなの慣れたはずなのに、どうして今さら…


「涙なんか…っ出るの…!」


 情けなく流れてくる涙がベッドシーツを濡らしていく。

 人というのは単純で、泣き付かれてそのまま寝てしまった私は悪夢を見た。






 床に散乱する割れた皿の残骸。


『あなたはいつも自分の研究ばかり…!!』

『仕方がないだろう仕事なんだ。娘にもお前にも欲しいものは何でも与えている。
 一体なにが不満なんだ?』

『……あなたは悪魔に心臓でも売ったの?
 あのときのあなたはそんなこと言わない…っ!私が愛したあなたはもういない!!』

 聞こえるのは悲痛な叫びと、苛立ちがこもった声。


 母が寝込む前のことだった。いつでも父が帰ればそんなやり取りばかりして。

『娘を産んでからね…あなたが変わったのは。
 あいつらさえ居なければ…!私は!!愛したあなたと幸せになれたのに!』


 また一つ、破壊音が響く。

 研究ばかりの父にしたのは私のせいだと、母は言う。

 父はまたそれを肯定も否定もせずに、家の研究室にこもってしまう。

 そして、使用人に促され自室に戻り布団を被るも悪魔のような顔をした母が私をベッドから引きずり出して手をあげるのだ。


『お前さえ居なければあの人は…!』


 そういいながら。

 抵抗もせず、歯を食いしばり強く目を閉じることしかできない私はなんて無力だっただろう。



……――ハッと、目が覚めて頭が一気に覚醒していく。

「あ、れ…?」

 昨日はベッドに倒れ込んだまま眠ってしまったにも関わらず、私はしっかりと布団をかけていた。


「…謝らないと、いけないな」

 そして、ありがとう。と伝えなければいけない。

 


 服を着替えて部屋を出る。

 シックな絨毯が引かれた長い廊下を、いつもより軽い足取りで進む。

 和解したら、朝食にしよう。

 生けてある美しい花はもう何年も気高く咲き続け存在を主張する。

 時計も止まったままで、相変わらず館の内側は時が止まっている。



 それでも、私のなかの何かが確実に動き出していた。



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