第六話 動揺




「この洋館にはどんな呪いが?」

「時が歪む。そんな呪い」


「は……?」


「あの柱時計をを見てみなさい、振り子が重力に逆らって止まっているでしょう?
そういうことよ。」

 この館には未来も過去も存在する。

 この部屋を出て、ある部屋に行けば未来を除くことも、過去を見ることもできる。


「……そんなことが、本当に」

 有り得るのか?という言葉を遮るようにして、娘がため息をはいた。

「なら、あの振り子はどう説明するの?」

 呆れたように少し冷たくいい放って紅茶を口に含んだ。流れるような動作で、美しく。

「……」

 俺は言い返せず、ただその娘を見ていた。

 冷たい瞳、声音。

 非難めいた、それを。


「なにを…」

 なぜそんな人を拒絶するような、突き放すような眼をするのか。己の殻に閉じ籠るような…そんな眼を。

 それでいて…なぜそんなに寂しげな、物悲しげな眼をするのか。


「そんなに、怯えている?」

 ゆらり、娘の双眸が動揺に揺れた。

 一瞬の出来事。それを俺は目敏く気付いた。

「怯えてなんかいないわ
 私はただ、物わかりの悪いあなたに呆れて…」


「違う。そんなの建前でしかない。」

 ここで引き下がれば、もう二度とこの娘の核心に触れられないような気がして、また言葉を遮った。


「お嬢さんにかけられた呪いはなんだ?」

 カシャン!と音がして少し乱暴にカップがソーサーの上に戻された。琥珀色の紅茶が少し溢れていた。

 それをみてパチンと娘が指をならす、するとティーカップはどこかに消えた。


「あなたには、関係のないことよ。
 話す義理もない…!」


「力になれるかもしれないだろ!!
 それともずっと呪いに縛られたまま独り寂しく過ごすのか?!」

「そうよ!これは童話じゃない、呪いをとくなんて出来やしないの!
 だから……っ、独りで生きていくしかないのよ!!
 ほっといて!私は悲しくなんか…寂しくなんかない!」


 ガタンッと細かい装飾が施された椅子から立ち上がり俺を睨み付けながら言う。


「だったら…っ!」


どうして涙を流す…!


 娘はそれを聞くと、また鋭い眼光で俺を睨み付けて早足に部屋を出ていった。

 その後ろ姿は、まだ17そこらのか弱い娘と同じものだった。


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