第四話 怪我人



 静寂に飲み込まれた夜の館に、扉があくような物音と聞き慣れない男の声はよく響いた。

 玄関ホールからだ、と立ち上がり侵入者を確認するためすぐに向かうと

 大理石の床に血溜まり作った男が倒れているところだった。


 一瞬だけ、暗闇のなかでも発光しているような輝きを見せるその紅の瞳と視線があった気がした。


 すぐに駆け寄って医療魔術を施す辺り、私はとんでもないお人好しなんだなと呆れながら男に声をかける。



"本当は独りに寂しさを抱いていたんじゃないのか?"


 ふと頭をよぎる考えを打ち消すように、別の謎へと手をつけた。

「……どうやってここに入った」

 たしかにあの扉は開いた。今では固く閉じられている扉は得意魔術である攻撃魔法をどんなにぶつけてもびくともしなかった。


なぜ扉は開き、外部の人間の侵入を許したのか……。


 私と世界を分け隔てていた扉が開いた。これは"呪い"の綻びなのだろうか、それとも…――。

 当たり前ではあるが男の返答はないまま、あれこれ思想を巡らしながらも応急措置を終え、空き部屋のベッドへ寝かせた。


 このくらい魔術でどうにでもなるのだが。

 ふぅ、と一息ついてベッドの近くにある椅子に腰かけた。


「っ…ぐ、…!」

 夢にでもうなされているのだろうか、ときおり男は苦しそうに顔を歪ませ汗をかいている。

 パチンとお馴染みとなったフィンガースナップでタオルと氷水を用意して、氷水に浸したタオルを絞り汗を拭う。


 悪魔のような輝きを持った瞳は今、まぶたの裏にある。

 目覚めるまで本でも読もうかと、備え付けの本棚から気まぐれに1冊取り出した。

 悪魔や天使、召喚獣のことが記されている本だった。


 今宵満月、窓から差し込む月光が手元を照らす。



 ランプは必要無さそうだ、と美しい月を見上げて椅子に腰かけた。



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