第二話 魔術




 ここらでひとつ、私のような者が扱う魔術について話しておこうと思う。

 魔術、それは一種の"魔法"である。


 しかし、おとぎ話に出てくるような"素敵な"ものではない。

 望んだものに見合う対価や代償が待ち受けているのだから。

 無から有は産み出せず。

 魂の召還は禁忌となる。


 それは、魔法をたしなむものがまず最初に学ぶものだ。

 また、代償や対価が支払えないものを望むこともタブーとされており、それは魔術師達の魔力…力量などにも大きく左右される。


 タブーや禁忌を犯したものの末路。

 それは"呪い"といった形で魔術師に降りかかってくる。

 大した魔力も無いのに、大それたものを望めば、身を滅ぼし消滅するという例もあった。

 魂の召還を試みた者は己の魂だけを抜き取られ、脱け殻と化する。

 ならば私は何を望んだのか。



 それは、"愛"だった。

 当時、まだ私が一家の跡取り娘だったころ。"愛"、その姿形を知るために願い、望んだ。望んでしまった。

 どれほど大きな対価を払うことになるかも知らずに。

 跡取り娘。その肩書きだけが目当てで言い寄る男どもも、ご機嫌とりの使用人たちも、自分の仕事や研究で手一杯の父親も、私を恨む妹も、病に倒れる母親も。

 誰も彼も私に"愛"を教えてはくれなかった。

 だから、興味本意で…いや、"愛"を求めて呪文を唱えてしまった。

 それは、私の魔力では当然叶えられるものではなく"世界からの拒絶"として"呪い"をかけられた。


 "世界からの拒絶"、それは永遠に一人孤独に生きるということ。

 "愛"に触れることなく、この館で同じ時を過ごすということ。


 このように、魔術を扱う場合それ相応の覚悟と代償を持ち合わせていることが重要である。

 代償。それは己の血肉であったり、魔力であったりさまざまだ。

 己の血肉、といったようにからだの一部分は魔力を一時的に増幅する作用があるものも在る。

 他にも、満月の夜など月に関するものも魔力増幅の効き目がある。


 そもそも魔力とはなにか、それは魔術を使うにあたり必要なエネルギー源。

 魔力は、個人個人で同じものがない、それにしたがって、魔力の種類や属性により得意魔術が決まってくるのである。

 また、魔力は術者の精神力、及び経験によって決まってくる。

 よって、肉体的精神的疲労によって魔力が尽きることもある。


 それをわかっていたにも関わらず、大それたものを望んだあの頃の私は、それこそ愚か者であり、戒めを受けて当たり前だと言えよう。


 魔術について、少しは理解していただけただろうか?



 陽が傾き始め、地平線の向こうに忌々しい太陽が沈む頃、また一つパチンと指をならす。

 パッ、と古めかしいシャンデリアが明かりを灯す。

 もう感覚が麻痺するほどこの館で一人、世界から隔離されて生きてきた私にはこんなこと造作もないことであった。


 独りになんて、慣れてしまった。


 出たいなんて、今さら思わない。



 出たところでなんになるというのか、私がここで同じ時を過ごす間に、世界は目まぐるしく変化し成長している。

 そんな世界に私が溶け込める可能性はもはや0に等しいだろう。

 外には"真実の愛"が、"運命の出逢い"がある?



 馬鹿馬鹿しい。



 "真実の愛"なんてくだらないものはどこにもない、私が唯一求めていたものは、やはりただの夢物語だったのだから。




 あの男が、来るまでは。



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