第一話 洋館



 ここはブナの森林を抜けたその先にある洋館。

 玄関ホールから大広間まで続く大理石の長廊下には蝋燭が消えることなく燃え続け、花瓶に生けた花たちは枯れることを知らない。

それだけではない。


未来を映し出す大きく、豪華な水盆。

過去を浮かび上がらせる水晶。

重力を無視して、中途半端な所で止まった柱時計の振り子。


 この洋館は時が進むことをやめ、過ぎたはずの過去が存在し、知ることのない未来を垣間見ることができる。



時空の歪みにある洋館なのだ。



 そんな洋館にただ一人閉じ込められた娘がいた。

 世界から拒絶され、時空の狭間に"愛"を置いてきた娘。


 それこそ、おとぎ話のようだと思っただろうか。
 しかし、この物語はそう簡単には片付けられない複雑な呪いがかかっていたのである。

 洋館から出ることも出来ず、また外部から人間の侵入も許さない。
 そんな時の狭間で、娘は幾年も同じ時を一人孤独に過ごしていた。

 二年か、三年か。はたまた二十年か、三十年か。


 それさえも、わからなくなるほどに。

 確かに外の景色は目まぐるしく移り変わっているはずなのに、館や娘自身は変わらず在り続けていた。

 いつしか娘は、呪いを解くことを諦めた。

 この呪いは、己が求めた物の対価、代償なのだと。

 戒めなのだと、納得したふりをして。

 紅茶にうつる娘の顔は苦悩に少し歪んでいるように見えた。


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