09 《Playwright side》


「よし、この辺で休憩をとることにしよう」

 日照りの続く真夏のダンス練習は、さすがの高校生の――しかも、受験生の――体力さえも容赦なく奪う。ニュースでは連日熱中症で病院に搬送されたり死亡するといった話を聞く。[脚本家]であり演技指導も(成り行きで)手がける立場の僕としては、大事な夏休み中にそんな事件を起こす訳にはいかないのだ。

「休憩時間はちゃんと休むこと。水分補給も忘れるなよ」

 うぃーっす。はーい。返事こそまばらだが、みんな思い思いに体を休めていた。まあ、あんなハードなダンス練習に次いで僕の少々神経質な演技指導が入れば、心身ともに疲労もたまるだろう。水分はちゃんと補給して欲しいな。

「北島君、ちょっといい?」

 控えめな声で、僕の名前が呼ばれた。そちらを向けば[シンデレラ]こと小田原さんが台本を手に立っていた。「なに?」と聞き返せば、台本の中程のセリフを指差しながら、こう聞かれた。

「ここで[お継母さん]に話しかけるシーン、あるでしょ?袖から出てくるタイミングが、まだ良くわからな」

「北島ぁ、俺も後でいいか?」


 [シンデレラ]の言葉尻に重なって[王子]も僕を呼んだ。

「いつでもいいって。今は[シンデレラ]と話してるから、後でな。……で、登場のタイミングだけどね、止まった時の立ち位置を大事にしてほしいな。基本的に全体の登場人物の立ち位置が常にステージの中心にくるようにして欲しいんだ。つまりね、[継母]と[シンデレラ]との距離の中心点を意識して登場してみて。何回か練習すれば感覚つかめると思うんだ。なんだったら次の練習はそのシーンからにしよう」

「本当?じゃあ、お願いしようかな」


 そう言って小田原さんは友人の元に駆けていった。





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