確かな円運動が二人を繋ぐ
発見の水曜日
 今日も参考書と教科書との戦いだ。白いノートが、自分の書いた図や数式や定理で埋まっていくのがこれほど気持ちのいい作業だとは気付かなかった。字が下手くそなのには目をつむる。

【等速円運動をする物体が、ごく短い時間Δデルタtの時間でΔθだけ回転したとする。その時、速度がvからVになったとする。この時回転した角Δθは、Δtが短ければ短いほど小さい。また、等速円運動なので、vとVは等しい。……ここで、その二点での運動を図に表してみよう。】

 俺はコンパスと定規を取り出して、なるべく忠実に教科書の図を再現しようと試みた。わざわざ感もあるが、ことは真剣勝負だ。真剣にやらねば。次の白いページに大きい円を一つ書く。中心があって、そこから円周に向かって伸びる半径を二本。その間に生まれた角度Δθがあって、その間を駆け抜ける短い円弧がある。

「ええと、円弧の長さってどうやって求めるんだっけ」

 円周が【(直径)×π】だから……いや待て、【(直径)=(半径)×2】で表すんだった。つまり、【(半径)=2r】だ。ということは、【(円周)=2πr】で、【(弧の長さ)=(円周)×(回転角)/(2π)】だ、か、ら……。
 おお? 2rの「2」と2πの「2」が約分! 2πの「π」と円周の「π」が約分! 分母がなくなったぞ。
 弧の長さはrΔθだとわかった。

「r、Δ、θっと」

 結果を図に書き込んで作業再開。まず一点から接線を伸ばして矢印にする。定規がシャッとなる。これがvだ。速度も力のように、矢印で表すことができるらしい。もう一点を決めて矢印をビヨンと伸ばす。これがV、と。
 ……こんな調子だから、教科書一、二ページごときに半日がかかるんだ。効率の悪いことこの上ないが、何せ俺の許容容量が大したものじゃないのが原因だから仕方ない。

「おお!」

 思わず歓声がこぼれる。なんだか中心向きの矢印が出来たぞ? 
 矢印の伸びている始点二点から等距離にある円上の点をPとした。その点PにvとVを平行移動させたら二等辺三角形の等辺だけの部分が出来たんだ。そして、底辺部分を結んでやると、ちゃんと中心を指した矢印になってくれるらしい。

「望道は同時に肩にも力を感じているはずよ。同じく、引っ張られる力。私という方向に向かって、引っ張られる力をね」

 この柚希の言葉は、「平行移動」を見越して言ってくれたヒントだったんだ。彼女は本当に頭がいい。俺なんか、足元はおろか、影にさえも手が届かない。

「今日はここまでだな」

 はっきり言って、疲れた。でも、明日になったら半分くらいは忘れているかもしれない……そう思うと途端に落ち着かなくなって頭が冴え渡り、眠れなかった。



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