確かな円運動が二人を繋ぐ
困惑の火曜日
 教科書や図解集は、なかなか情報が詰まっているらしいことは分かった。ただ、読み取りきれない。俺が柚希を介して見ていた世界は、一体どこに散らばってしまったのだろうか?

「根気が足りんなあ……」

 目を凝らして、世界を見るつもりで空を眺める。黒くて大きい一羽の鳥が伸びやかに旋回していた。これも円運動だというのなら、中心なんてどこにあるんだ……。竹林に向かうつもりで、一階の廊下を玄関方向に歩く。
 自転車の鍵の輪っかに指を通してくるくると回す。肩を叩かれた。何も疑わずに振り向くと、頬に人差し指がフニュ。

「考えてるね」

 柚希だ。こうして廊下で話すことは滅多にないから、話しかけられたことが素直に嬉しい。それにしても、彼女は読心術でも持っているのだろうか? 確かに問題のことを考えていた。

「行くか?」

 俺の質問は、至って簡潔だ。そして、柚希の返答も。

「もちろん」

 こうやって二人並んで林に向かうのは、自分でも意外なのだけれど、初めてだった。何だ、緊張するな。



「どう、進んでる?」
「まだ二日目だろ。無茶言うなよ……」

 チャリ、と手のひらにキーホルダーを収めて、俺は生暖かい芝へ横たわる。

「考えてはいるんだ。例えば……そうだな。まず、円運動のことを調べてる。あとは……キーホルダーを指で回す時、そういえば指が少し動くな、とか。空をこう、グルッと回って飛ぶ鳥は、円運動をしていると言えるのかな、とか。まあ、くだらんことばかりさ。
 ……考えているだけで、全然進まない。ゴールさえ見えてこない」

 ふと、問いを思い出そうとする。そういえば、忘れかけていた。ええっと。

「『円運動に中心方向の力が働いていることについて』だったね」

 柚希の思考が、動き始めたようだ。手助けはしないんじゃなかったか? 黒い瞳が現れた。第一声は、

「ヒントをあげる」

 だった。ヒント?



 ヒントをあげる。力っていうのは、始点と向きがあるでしょう? 力が矢印で表されるのは、そのため。実は、速さも同じように矢印で表すことができるの。
 今、望道の手をこういう風に引っ張ったとする。私の力が直接働いているのは、望道の手。だから、力の矢印は望道の手から伸びている。始点は手、ってことね。でも、望道は同時に肩にも力を感じているはずよ。同じく、引っ張られる力。私という方向に向かって、引っ張られる力をね。
 私は今からこうして、望道の周りを腕の長さの半径で円運動する。けれど私が感じている力はただ一つ、望道が私を引っ張っている力だけよ。



「どう?分かりそう?」

 いやいやいや。

「今のが、ヒント?」
「うん、そうだけど」

 回るのはやめたのに、俺の手を握ることはやめない柚希にドギマギしながらも、俺はその呆気なさにうろたえるばかりである。

「うーん、もう一声」

 たまに甘えてみると、女性は弱いと聞いたけど。

「駄目。自分で考えるの」

 柚希は許さなかった。というか、「甘える」の意味が違うか。



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