十月十日
 十月十日、金曜日。
 図書室に登校してから、昨晩、両親と話し合ったことをサガさんに報告した。
「昨日、三学期が始まるころにはと言ったけれど、じっくり考えたほうがいい。僕にとってそうであったように、ユキヤくんにとっての、人生の中におけるひとつの分岐点になると思うから」
「わかりました……それで今日は、英語教えてもらえますか」
「英語か……あんまり得意じゃないけど、まあいいよ」
 こうして、英語を教えてもらっているとき、サガさんがふいに口を開いた。
「いや、こうしてると、なんだか担任になった気分だなあ。うれしいよ。学生時代、教師になるのが夢だったんだ」
「そうなんですか。僕も教師になるのが夢なんですよ」
「そうなんだ。叶うといいね、その夢」
 サガさんの表情は、本当に楽しそうだった。けれど、ナガタ先生に出しゃばるなと言われていたはずだ。大丈夫なのだろうか。心配になって、サガさんに聞いてみた。
「限度を超えたら……大丈夫なんですか」
「ん……ユキヤくんが心配することじゃない」
 簡単に、あしらわれた。



 話し合いをした次の日からずっと、インターネットで通信制高校のことなどを調べたりして、内部進学するかどうかを考えた。残りの一パーセントを埋める作業をした。
 インターネットという世界は広大だ。メリットも、デメリットも書いてあった。自分のペースで学習できるが、大学進学は通信制高校だけでは、なかなか大変らしい。それから、根拠のなさそうな噂も。 
 インターネットと樹海はよく似ている気がする。道に迷うと、とことん迷って、出られなくなってしまいそうなところが。
 そして僕は、迷いながら、けれど樹海から出られなくならないように、残りの一パーセントを埋めて、ひとつの答えを出した。それを両親に伝えたのが、十月十七日、金曜日。
「父さん、母さん、僕から大事な話があるんだ」
「なんだ」
「内部進学はやめようと思う。それで、通信制高校だったり、サポート校だったり、そういうところに行って、そこから大学を目指そうと思うんだ」
「ほかの全日制高校を受けようとは思わなかったのか」
「うちの学校、中高一貫だから、内申点がないんだ。だから、全日制は難しい」
「そうか、わかった。父さんは、一生、ユキヤの味方だから。安心しろ」
「当然、母さんも」
「ありがとう、本当にありがとう」
「学校には、母さんのほうから伝えておくから」
 僕は両親に、答えを出すことができた。決断できたことがなによりうれしかった。けれど、両親の瞳の奥が、悲しんでいるようにも感じて、少しだけ罪悪感が残った。
 それを察されてしまったのか、「大丈夫だ、心配するな。ユキヤはなにも、悪くない」と父に言われてしまった。
 父にそう言われると、罪悪感が、泡のように消えていった。
 森がどんどん明るくなる。あと少し、あと少しなんだ。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -