『真選組による民家崩壊現場に現れた謎の中華系美少女。今、あの少女が話題を呼んでいます!!』


テレビの音声に反応し顔を上げた新八が見たものは、画面いっぱいに映る見知った少女。切り替わった画面には、インタビューを受けるハチマキを巻いた男と、その後ろに群がる大勢の男達。自分に通ずる何かを感じるその集団は、神楽の写真が印刷されたうちわ片手に謎の掛け声を発している。うちわの写真はテレビ画面に映っていたものと同じだが、問題はそんなことではない。


「ぎっ、銀さん……」
「“果たして彼女の正体は?そして、真選組との関係は!?”……だとよ」


銀時は読んでいた新聞をばさりと放り投げ、大きく溜息をついた。


「ど、どうするんですかこの騒ぎ!?」
「どうしようも無ぇだろ。なーんか総一郎くんが関係してるみたいだし、任せとけばいんじゃね?一応警察だろ、アイツ等」
「でも……」
「ふあ……。おはよーアル」


欠伸をしながら遅めの起床を迎えた神楽。新八はそんな神楽に駆け寄り、がっしりと肩を掴んだ。


「……何アルか朝から発情してんナヨ駄眼鏡。あーあ、これだから童貞は困るアル」
「もう昼近いし発情とかしてないし童貞ってそんな真顔で言わないで傷付くから。……それより神楽ちゃん、今日は外に出ちゃ駄目だよ?」
「なんでアルか!?酢昆布のストック切れアル!買いに行かなきゃ死んじゃうヨ!!」
「僕が買ってきてあげるから、ね?とにかく今日は万事屋に居るんだよ」
「むぅ……。意味解らんアル」
「今外出たらアレだ、新八みたいなのに襲われんぞ?」


むくれる神楽の頭に手を置くと、銀時は新八を指さしわななく声でわざとらしく言った。


「眼鏡に襲われるアルか?地味過ぎて怖いアル!!」
「……そうそう、だから此処で大人しくね」


自分の扱いの悪さは諦めて、新八は洗濯物を畳む作業を再開する。神楽は未だ不服そうながらも、用意された朝食を掻き込み始めた。


「ん」


チャイムの音がしたかと思うと、客人の筈のその足音は躊躇い無く万事屋内へと踏み入る。慌てて対応に向かった新八は、あ、と小さく声を漏らした。


「どうも」
「沖田さん……」


無遠慮に居間へと進入した沖田は銀時に軽く会釈をし、床に放置された新聞に目を落とす。


「すいやせん。お騒がせしてるみてえで」
「いんや?なんとかしてくれんだろ、当然」
「勿論そのつもりで。……という訳で、ちょいと借りて行きまさァ」


もぐもぐと米を咀嚼中の神楽を持ち上げ、沖田はそのまま玄関へと向かう。神楽は一瞬呆然とするも、気が付いたように暴れだし持ったままの箸を沖田の背中に突き刺した。


「ってぇな、オイ」
「ふがががふぐ、むっぐう!!」
「何言ってるか解んねえよ」
「んっく……。何処行く気ネ、オマエ」
「皆さんお待ちだかんなァ、下で」


沖田はトントンと階段を降り、漸く神楽を解放した。一息ついて沖田への抗議の為に視線を向けると、その後ろに広がる光景に絶句した。


「っな、何アルか、コイツ等……」


カメラを持った男、男、男。万事屋はいつからこんなに大盛況を迎えたのかと神楽は大混乱。沖田はと言えば、至極不機嫌そうな顔で神楽を見つめていた。


「お前のファン」
「ふぁん!?私そんなの作った覚え無いネ!!」
「こないだカメラに映っただろ。アレ、テレビで流れたんでィ」
「ま、マジでか」


成程、銀時の言っていた“新八みたいなの”とは、いわゆるオタク、奴等のことだったのか。得心した神楽だが、カメラのフラッシュに光る彼等の油ぎったニヤケ顔を見て鳥肌が立った。人間相手にここまで恐怖を感じるとは。神楽は思わず沖田の袖を掴みぐいぐいとそれを引っ張る。


「サド!なんとかしてヨ……」
「なんで?アイドル扱いだろィ、嬉しく無ェの?」
「あんなの怖いアルっ……」


自分を見上げ潤んだ瞳で懇願している神楽。沖田は心底その状況を楽しんでいたが、後ろからの歓声罵声に良い加減苛つきも限界だった。


「承知しやした」


何処からともなく拡声器を取り出すと、ボリュームを最大に捻り口元に運ぶ。キィィンと嫌な音が響くがこの際無視。沖田は小さく息を吸った。


《えー、残念ながら、君達が追っ掛けてるチャイナ娘さんはもうお巡りさんのモノでーす。手ェ出したら拷問の末死刑なんで、そこんとこ宜しく頼まァ。つーことで君達、変な集まりは解散。此処にも金輪際近付かないでね、と。……さっさと消えろ》


輝く笑顔でドス黒いオーラを放ちすらりと刀を抜いた沖田は、恐怖で硬直状態の男達に切っ先を向け徐々に距離を縮めていく。何処かでカラスが不吉に鳴いた。


『っひ、いぃぃぃぃぃ!!!』


地響きと共に上がる砂埃、晴れた頃には野良猫一匹居なかった。



「……さて、お嬢さん」


沖田は刀を仕舞うと、再び拡声器を手に振り向いた。


《真選組の一番隊隊長(次期副長)と話題のチャイナ娘は恋仲だったァー》


雑音が混じる程の音量で、その言葉は放たれた。そして沖田は拡声器を置き去りに、神楽をその胸に閉じ込める。


「……っていう噂はすぐに広がりますぜィ?俺は警察官だ、嘘をつく訳にはいかねえ。どうすれば良いと思う?」


選択肢など有って無い答え。沖田には始めから、神楽を逃すつもりなど皆無なのだ。


「……ナメんじゃねーヨ」


そんな小狡い男の考えなんてお見通しとでも言うように、神楽はふふんと得意気に笑った。黒い背中に手を回し、顔を見上げて声を潜める。



「嘘を真実にすれば良い、ダロ?」
「……御名答。」



──斯くして、江戸の男達を魅了した中華娘騒動は終息を辿った。青年と少女の新たな関係の始まりを、迎えて。









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1000打記念アンケートリク、ミミさまに捧げます。素敵リクエストを見事にブッ潰してしまって申し訳ありません…。アンケート回答・リクエスト、ありがとうございました!


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