DIVE!番外編

「…まの、浜野!」


聞いた事のある声。口々に呼ばれる名前に浜野はゆっくりと目を開く。
すると、雷門のメンバーは安心したように歓声を上げた。地面から体を起こせばズキリと頭が痛む。


「…いったぁー」

「お前大丈夫かよ、ほら」

「浜野先輩すみませんでしたっ!!」

「……すみませんでした」


倉間に手伝ってもらって立ち上がれば天馬と剣城が二人揃って頭を下げた。
あー、そういえば。
天馬と剣城がシュートの打ち合いなのか対決をしていた流れ球をもろにくらってしまったんだっけ。
若干記憶が飛んでた浜野は苦笑いで二人の肩を叩いた。

「だいじょーぶだって。ほら、俺ピンピンだし」

「そうは言っても、先輩白目剥いてて…っごめんなさい」

「うそ、白目剥いちゃってたの俺」

思い出したのか二人が顔をさらに曇らせるのに浜野も力なく笑った。白目は確かに怖いよな。
まぁ、大したことはないし今度気を付ければ良いんだからと言えば剣城が真面目な顔で返事をした。
うんうん、これでオッケー。
そう思っていたら倉間からデカイため息が漏れた。


「…ったく、お前ももうちょっと自分かえり見ろよ。飛び出して白目剥いて気絶とか洒落になんねぇぞ」

「へ?飛び出す?」

「えっ、浜野くん覚えてないんですか?」


速水に聞かれ首を横に振る。流れ球に運悪く当たったんじゃなかったのか。そう聞き返せば、天馬と剣城はまた顔を青くした。


「だ、大丈夫だって!ちゅーかほら全部記憶なくしてる訳じゃないし」

「でも」

「浜野っ!」


天馬が涙ぐんだ所でグラウンドの端から呼ぶ声がした。その瞬間浜野は条件反射的に顔を向けた。
浜野にとって大切で大好きな…


「心配したんだぞ!もう起きても大丈夫なのか?」

「へ…、あ、あれ?名前…ちゃん?」

「え?」




氷のうやタオルを抱えて必死に走ってきたのは、紛れもなく名前。…のはずなのに。
線が細そかった体はうっすら筋肉がついていて肌も少し日に焼けている。声もいつも聞いていたものより少し低くて、おまけに髪も短くて…


「浜野…どうしたんだ?」

「つーか名前をちゃん付けって、お前」


「え、え、」


パクパクと口が動く。
ぐるぐると目が回る。間違いないんだけども間違いであってほしい。
もう一度気を失ってしまいたい。


ありったけの空気を吐き出しながら叫んだ。




「お、男になってるーーっ!?!?」






********

信じられない。信じたくない。だが本物だ。
浜野はロッカールームで大きなため息をつく。

あの後は酷かった。
本気で全員から病院をすすめられ気絶させてしまった二人はどん底だった。
どうやら、名前をかばって浜野は気絶してしまったらしいがそんな事はどうでもよかった。


「俺のせいだ…ごめんな浜野」


と、少し涙ぐむ名前(男)には思い出しても喉がつまった。胸が苦しい。名前であるとは分かるのに全く違う。だが、顔はほとんど変わらないし性格も話し方も自分の知っている名前と差はない。

そのため、涙ぐむ姿は正直な感想、可愛い。



「だけど、男…なんだよな」


胸を触って確かめようにも見た目でがっつり分かるのが悲しい。学ランを着て何も躊躇いもなく霧野と男子トイレに入る名前を見れば分かる。しかも絵面がやばい。

倉間と速水から聞けば、男の名前と自分は大層仲が良かったらしい。浜野が名前にべったりなのはこっちも一緒だった。

名前は共にフィフスセクターに立ち向かうチームメイトとして試合で活躍しており、この前の帝国戦では化身を出したそうで、もうその辺りから浜野は頭が痛くなってきた。
全員が嘘をついてるとは思えない分、頭を抱えるしかない。

早めに帰った方が良い
と、放課後の練習から蹴り出された今、ロッカールームでうなだれているのであった。

別に名前の中身が変わってないのは良い。
ただ、問題なのは…浜野が名前に想いを寄せている部分だ。


(これってホモになるの!?いきなり、男好きになるとか、違う違う!好きな子が男に)


うわーっ!とベンチの上でのたうつ。倉間が「お前ら見て女子がうるせぇから、名前が女子のほうが安泰だったかもな」とか言っていたのが頭を掠める。

直接振られるよりつらい…。パタリとベンチに寝転ぶ。男でも好きでいても構わないかもしれない。でも、名前が自分の方に想いを向けてくれる可能性は前よりも断然難しい。
世間体も、法律も、普段そんな事は考えなかったが確実に壁が出来る。


名前は男になっても名前。
男になったからと言って自分が好きになった部分は何も変わらない。

…急に好きをやめるのはできない

ベンチに座り直して拳を握る。
そんなこと出来るはずない。



「浜野」

「…名前、ちゃ」


伺うようにして入ってきた名前。浜野は呼び掛けて慌て口を閉じた。男の名前のことは呼び捨てだった。
それに名前は苦笑いを浮かべて隣に座った。


「…ごめん」

「何で浜野が謝るんだ。元はと言えば俺がぼーっとしてたのが悪いんだからさ」

そう笑う名前は少し違う。でも名前だ。浜野は目を伏せる。


「…あのさ、浜野。無理はしなくていいからな」

「え?」

「無理に思い出そうとしたら疲れるだろ?それに…俺は浜野が笑ってる方が好きだ」


無理をしているのは名前の方だ。
急に自分との思い出を忘れられて、あげくの果て性別まで違う。仲がよかったのなら尚更。

無理に笑って、でもこうして一番に浜野の事を優先させる所は名前に違いないのに。


でも思い出す事も出来ない。そもそも記憶自体ないのだから。
“あの”名前と過ごした記憶しか浜野にはない。




「…はは、好きとか簡単に言っちゃうとこ、変わんねぇよな」

「か、簡単じゃない!…結構恥ずかしいんだからな一応…」

「ん、そういうバカ正直なとこ俺も可愛くて好き」



苦笑いでそう吐き出す。切ねー…。なんて唇を噛み締めそうになる。
本当なら“あの”名前にもっと好きだと言っておきたかった。

浜野が眉をしかめるとガタンとベンチが音を立てた。
名前を見れば



「え」


思わず間抜けな声が出た。
名前はそれはもう顔を真っ赤にして、口をパクパクと動かしていて…。
ついつい目が丸くなる。



「バ、バカ、何言ってんだよ!可愛いとか、す、好きとか…!簡単に言ってるのは浜野じゃないか!」

「え?え?」

「…いつもはそんな事言わねぇのに…」



いつもって何ですか。
顔を真っ赤にさせて口元を手で覆う名前はイケメン極まりないのだが、この展開からあまり喜べない。
少し口調が荒い名前も新鮮だと妙に感動する暇もない。



「あ、あのさ…名前ちゃじゃなくて、名前。何でそんなに顔赤」

「は、浜野が言うからじゃないか!…確かに、二人だけど学校で言うことないだろ」


待った!待った!学校で、とか待った!

まさかとは思うが普通の男子がこんなにも狼狽えるか。女の名前でもこんな過剰反応しなかった、いや気づいてなかったのに。

流石の浜野もビシビシと自分に向けられるものには勘づいた。
ドッと汗が吹き出す。
いやいやいや。こんなことがあっていいのか。
震える声でたずねる。



「ま、まさか…俺達…付き合ってた…?」


「………あぁ」


コクリと名前が頷いた瞬間、ぷつと浜野は意識を飛ばした。









「…まの、浜野!」


聞き慣れた声がこだまする。浜野はゆっくりと目を開く。

見えたのは心配そうに覗き込むチームメイト。あれ…?ちらつく日差しに微睡みながら疑問に思う。


「浜野、しっかりしろ」

「大丈夫ですか!?」

「……グラ、ウンド?いっ…!」


ズキリと頭が痛む。倉間と速水に起こされ体を起こすとそこはグラウンド。ロッカールームで気を失ったはずじゃ…そう目を瞬かせると天馬と剣城がすまなさそうに頭を下げた。



「浜野先輩すみませんでした!」

「…申し訳ないです」

「え?うん、それ聞いたけど…」

「はぁ?何がだよ」

「だから…」

「ーっ浜野!」


不思議そうな顔をする倉間に返そうとすればまたあの声。やっぱり氷のうとタオルを抱えて必死に走ってきた。
が、それはユニフォーム姿はではない。



「名前、それ」


「へ?」


きょとん顔の名前。リボンにスカート、ハイソックス。女子の制服だ。
腕も細いし肌も白い。髪も長くなってるし声だっていつも聞いていたあの柔らかい声。

ー…まさか!!
瞳が震えた。



「浜野、いま名前」

「名前ちゃんが、女の子に戻ってるーっ!!」

「えぇ!?」


思わず飛び付いてみればいつもの名前。柔らかくて小さい。
本物だ。本物の名前ちゃんだ!!
そう涙ぐむ浜野に一同は疑問符を浮かべる。


「ちょ、浜野苦し…っ」

「あっちに先越されてたのは悔しいけど、俺、やっぱり名前ちゃんがいい〜」

「っこの病院行け!!」


ガツンと倉間に蹴られるのも何だか嬉しい。
妙にハイテンションな浜野に名前は首を傾げたのだった。




―――――

夢のはて/20万打hit記念
金子様より

フリーということで、お言葉に甘えてお持ち帰りさせていただきました!


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