私は声を出したい


『っ…!…!』


何度、声を出そうとしても声が出ない。


『っ……!』


何度も何度も声を出そうとしてみる。けれど声は出ない。


まだ…治らないの…かな…


今までは、もう声が出なくてもいいと思っていた。声が出ない以外は普通だから生活には困らないし、でも佐久間さんに出会って、源田さんや鬼道さんに出会って声を出したいと思うようになった。


……三人と普通にお話したい。


「どうかしたのか、」


急に後ろから声が聞こえ、勢いよく振り替えると鬼道さんがいた。おそらく佐久間さん達のお見舞い帰りなのだろう。


「今日は佐久間達の部屋に来なかったんだな」


私は会話をするため、隣に置いてあったノートとペンを手にする。


《今日は調子が悪くて》

「大丈夫なのか?」


そう言いながら鬼道さんは隣に座る。


《外の風にあたっていたら大分、マシになりました。》

「なら良かった」

《心配ありがとうございます》

「ああ」


思わず、ふわっと笑う鬼道さんにドキドキしてしまった。


「本当に大丈夫か?」


ボーとしてしまった私を心配そうに見つめる鬼道さん。慌てて、大丈夫と言う代わりに笑って返す。


「無理するなよ」


ポンポンと頭を撫でてくる鬼道さん。こういう事は初めてされたのでキョトンとしていると鬼道さんは「す、すまない、つい」と謝ってきた。


《別に良いですよ。》


むしろ嬉しいです、とか、頭を撫でてもらった事がないので、とか色々お話したいけどノートに書くのに時間がかかるし、返事を待ってもらうのはなんだか嫌なので、いつも返事が短くなってしまう。それが私は嫌。だけど鬼道さんは気にした様子もなく話を続ける。


「妹がいてな、小さい頃よく頭を撫でてやっていたから、つい癖で、な。」


妹…


「嫌、だったか?」


嫌じゃない、そう書く前に鬼道さんは立ち上がり「すまないな、じゃあ、そろそろ帰るな」と帰っていった。


ああ、普通に声が出れば、違うと言えたのに。またね、と言えたのに。


…声が出れば


こんな気持ちにはならなかったのに


鬼道さんが帰り、しばらく私はベンチに居た。


誰かに窓から見られているとは知らずに私は空を見ていた。


◆声を出したい
(昔のように)




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