佐久間との出会い

負けた


俺達は


俺は、負けた



頭の中でぐるぐるぐるぐると、その言葉だけが繰り返される。



今、鬼道が俺達のために戦ってくれている。だから応援しなきゃいけないのに、たまにこうやって頭の中がごちゃごちゃする。


「佐久間、大丈夫か?」


隣の源田は本を読むのを止め、話しかけてくる。余程、顔色が悪かったのだろうか


「少し風に当たってくる」


「…あまり無理はするなよ」


きっと源田も同じ気持ちになるときがあるのだろう。俺の気持ちを察したのか、何も聞かず、再び本へと目を落とす。







そして病院の外にある中庭のベンチに腰かける。


風が頬に当たって冷たい。けど気持ちいい。俺はゆっくりと目を閉じた。


しばらくすると、トントンと肩を叩かれた。どうやら寝てしまってたらしい。目を開けるとノートを持った少女がいた。


《こんな所で寝たら風邪引きますよ?》


丁寧な字で書かれてあるそれを見つめる。そして再びノートに文字を書く少女。


《私、話す事が出来ないんです》


ああ、だからノートに…


何も言わず黙っている俺に、にこりと笑う少女。


可愛い子だな…。


「起こしてくれてありがとう。俺、佐久間次郎。君は?」


《名字名前です。この病院に入院してます。》

「そっか。俺もここで入院してる。よろしくな」


《はい》



チームメイト達も入院しているが、他にはなかなか子供を見かけなかったので、少し嬉しかった。あと普段、あまり女の子と関わる機会がないのでなんだか新鮮に感じた。


《良かったらお友達になりませんか?》


突然の言葉に少しビックリしたが別に断る理由なんてない


「いいぜ」そう答えれば笑顔で《ありがとうございます》と書いたノートを見せてくれた。


そして色々話をした。サッカー部の事、ペンギンの事。つい、ペンギンの話で熱く語り過ぎてしまい、引かれたと思って彼女を見たら優しく笑っていた。あまり熱く語れる人物は限られているので、嬉しかった。ほとんど一方的に俺が話していただけだったが、なんだか楽しくてあっという間に時間が過ぎた。そして、ご飯の時間になり、また明日会う約束をして部屋に戻ることになった。


「じゃあな!」


《また明日》




部屋に戻ると、まだ本を読んでいる源田。


「おかえり」


「ただいま」


「?なんか楽しそうだな」


「え?ああ、今日友達が出来たんだ。」


「そっか、良かったな。」


「今度、源田に紹介するな」


「凄い良いやつなんだ」って付け足せば、「楽しみにしてるよ」と微笑む源田。





明日は何を話そう





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