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「それって癖なのか?」
聞かれてすぐには答えられなかった。ずっと聞こうと思ってたんだけどさという前置き、ティーダの目はこちらを向いていたから、対象がオレなのはわかったんだが。それ、が指すものは。考えつかなかったが、ティーダが身じろぎしたので気づく。
この手のことか。ティーダの頭の上に置いてあって、たまに撫でつけるように動かしている手。試しにどかして様子を見たところ、ティーダはこくこくと頷いた。
「嫌か?」
その頷きかたがやたら激しかったせいで、するりと口にしていた。質問に質問で返してどうする。しかもこれじゃ、意識的な行動だと宣言しているようなものだ。
「嫌じゃないけど…」
その証拠にティーダは、困惑したように目をぱちくりとさせた。
少しだけ焦る。ごまかしたんじゃ返って怪しまれるか?小難しいことを考えそうになって、…すぐにやめた。嫌じゃないと言われたんだ。
オレはためらいなく、手のひらを元の位置に戻した。
「触り心地がいいってわけじゃないよな」
まあな。ティーダの髪はその見た目の通り、柔らかい質をしているわけじゃない。しかも砂埃をまとってざらざらしている。
「…わかったぞ。クラウド、オレのこと犬とか猫とかみたいに思ってんだろ」
「いいや」
それでもオレは、わしゃわしゃとかき回すように撫で続ける。
「思ってるって」
「誤解だ」
だからといって癖というのもしっくりこないけどな。隙を見てはこうしてしまう、強いて言うなら、ティーダがそこにいるからで。
「こうしてると落ち着くんだ」
当たり障りのない、この答えで納得してくれないか。
ものは言いようというだけで、嘘じゃない。頭を撫でる。たったこれだけのことで、誰も俺たちの間には入ってこなくなる。…なんて考えてること、おまえには知られたくないんだ。

2018/7

 



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