text1 | ナノ  

ひなたぼっこ

現パロ

 一生の不覚だ。今シーズン最強の寒波が襲ってきた、このタイミングで、エアコンが壊れるなんて。…いやそうじゃない、壊れたのは不可抗力だから仕方ないんだ、他の備えをしておかなかったというのがオレのミス。いくら冬国じゃないからといって、ヒーターの一つも用意していないなんて、世が世だったら今頃オレは…。
 後悔はしてもし尽くせない。だが、こんなオレにも希望がないわけじゃなかった。冬場の心強い味方。こたつだ。
 すごいやつなんだぞ、こたつは。エアコンで部屋を暖めると頭がぼーっとすることもあるが、下半身だけを暖めてくれるこいつならそれがない。足を温めるのは体にいいし、何より本当に心地いいし。
 しかもこの状況だ、なおのことありがたい。窓の外では冷たい風が吹きすさんでいるが、…な、なんだと?雪が降ってるじゃないか!
「おい、ティーダ!」
「…なにー?」
「雪が降りはじめたぞ!外見てみろ!」
 この辺りでは本当に珍しいことなんだ。暖冬が続いたということもある、何年ぶりだろう、久しぶりの雪。
「待って、今それどころじゃない」
「そんなこと言ってる場合か、すごい吹雪なんだぞ。屋根がもう真っ白に」
「わかったわかった」
 それが見たこともないぐらいに激しく降っているから、我を失うほどオレは驚いて、
「ティーダ、見てみろったら」
「だからわかったって…あぎゃ!!」
 この感動を早く分かち合いたかったんだ。それでかたわらにいるティーダの腕をぐいぐい引っ張ってたんだが、突然叫び声を上げられて別の意味で驚く。
「ど、どうした?」
「し…死んだ」
「なに!?いったい誰が」
「オレのキャラが!あーっ、あと少しだったのにっ!」
 …なんだ、驚かすんじゃない。ゲームの話か。家にきてからずっと、なんとかというゲームに熱中していたティーダ、そういえばやけに静かだとは思ってたんだ。佳境だったなんて知らなかった。
「やり直せばいいじゃないか。そんなことより雪が…」
「んあ!?そんなこと、っつった?大変だったんだぞ、ここまで進むの!すげーがんばったのに、しかもあとちょっと、ほんのちょっとで倒せたのに!」
 ティーダは言いながら、右手で輪っかを作って見せてきた。輪っか、いや、親指と人差し指の間にわずかな隙間がある。それくらいに惜しかったということらしい、かといってそこまで悔しがることないだろうというのがオレの本音で。
「もう、フリオにはわからないッス」
 言葉を選んでいる間に、見事にそっぽを向かれてしまった。本気で拗ねてるわけじゃないのはわかってるが、その様子につい笑みがこぼれてしまう。悪かったよ。頭を撫でると、ティーダも耐えきれなくなったらしく、肩を少し震わせた。
「で、なんだっけ」
「何のこと…ああ、そうだ外、見てみろ。すごいぞ」
「ふーん…」
 ティーダはいかにもめんどくさそうに視線を動かした。窓の外を見る、…うわ!!だから大声を出すな。
「本当だ!うわ、わあ!すっげー雪!」
 予想以上の反応だった。はしゃいで目を輝かせて、そんなに夢中になるとは。だから言っただろ。オレが声をかけたのも耳に届いてないらしく、口をぽかんと開けたまま窓のほうを見ている。
 オレもつられて、外へと視線を向けた。勢いが強くなってきている気がする。積もるのも時間の問題だ、けれど…ふふ。ティーダに視線を移して、つい吹き出してしまった。浮かれている雰囲気を全身から発散させて、その様子がまるで子供みたいで。
 もしくは、犬と言いかえてもいい。積もったら雪遊びに誘ってくるのに違いない、むしろ今すぐにでも飛び出して行きそうな勢いだ。おまえのそういう、無邪気なところが。
「…何笑ってんの?」
 いつの間にかティーダがこっちを見ていて、不思議そうな顔をしていた。
「いやな。嬉しそうだなと思って。雪合戦でもしに行くか?」
「えー、やだよ。寒いもん」
 その一言で現実に引き戻されたような思いがする。そうだ、今のオレたちはそんなことを言ってる場合じゃなかった。外に出て帰ってきて、シャワーで暖まったとしてその後は。
「つーかフリオの部屋、寒すぎなんだよ」
 これには返す言葉もない。すまない…オレのほうも急に寒さが身に染みて、体が震えた。くそ、なんでこんなときに限ってエアコンが壊れてるんだ。
 それもそうだが。
「おまえこそ、こんな天気なのによく来たよな」
 ふと思う。こんなときにくるなんて、ティーダも運が悪い。それに無鉄砲だ。天気予報では今日は雪、そうじゃなくても雨となっていた。連日、最低気温はマイナスを記録している。最高気温だって5度にも届かない寒さだ。こんな中わざわざ訪ねてくるなんて、無茶をする。
「だって休みだし。ゲームしたいし…」
 それなら持って帰っておけばよかったのに。…ああ、このゲームはもともとティーダが持ち込んだものなんだ。好きにさせてたんだが、やはりここに置いておくべきじゃなかったのかもしれないな。
「風邪を引いたらどうするんだ」
「そんなヤワじゃねーもん」
 口を尖らせて言うと、ティーダはコントローラーを握り直した。ヤワだとかヤワじゃないとかという問題じゃない、大体、寒い思いをしてまですることじゃないだろう、そう言い返そうとして思いとどまる。どうしたんだ?ティーダ、心なしかむすっとしてないか。
 ただゲームに集中しだしただけか。会話が途切れて少しさみしい気分になる。同時に、寒さが増してきた、これはこたえるな。オレは背中を丸めて縮こまる。できるだけこたつの中に収まるように、…だが、半ば蹴るようにして押し返された。
「何をする」
「足邪魔」
「おまえなあ」
 憮然と言い放つので、さすがにむっとしてしまった。窮屈なのはしょうがないだろう。一人用の小さなこたつなんだ、そこに二人で入ろうというのだから、譲り合いの精神を持ってくれ。こうして脚を重ねて、しかもずっとオレのほうが下でいる。痺れるんだ、少しくらい動かしたっていいじゃないか。
「だめ、動かすなっつの」
 かといってこたつの角度を変えようとすればこれだ。どうしろっていうんだ。ティーダ、いくらなんでもわがまま過ぎるぞ。
 …そう思わなきゃいけないところ、仕方ないな、なんてオレも大概、こいつに甘い。
「ならこうしよう」
「へ?……うわ、何すんだよフリオニール!やめろムリだって」
「大丈夫だ、いける」
「ムリムリ!あっ……痛い痛い!やめ…っ」
「たしかにきついな…こら、動くな」
「だって…くるし……」
「…そのまま……よし、入ったぞ」
「入った…けど」
「大丈夫か?」
「……大丈夫じゃない!」
 さすがに押し付けすぎたか。少し腰を引く。
 だが考えただろ?脚を重ねないようにするには向き合うか、同じ方を向くしかない。向き合うのはテレビが見れなくなるからできない、となればこうするしかないというわけだ。むしろ、もっと早くに気づくべきだったな。
 オレはティーダを後ろから抱え込む、この体勢に満足して一息ついた。
「なんか変じゃない?これ」
 ティーダが収まりが悪いらしくもぞもぞと身動きする。そうか?オレからしてみれば、意外なほどしっくりきたって感じなんだが。それにほら。こうして…肩に顎を乗せればさらに。いや、しかし…むむ、腕までは突っ込むことができない、置き場に困る。
「でも暖かいだろ」
「まあ…」
 迷った末、ティーダの手の上に重ねることにした。その冷たさに驚く。見れば指先が白い、こんなになるまでゲームするなんて…それ以上に、もっと早く気づいてやればよかったと後悔した。
「そんなことしなくったって大丈夫だって」
 摩擦でどうにかならないかと思ったんだ。ティーダはそう言うが、このままにはしておけないだろう。他に何かないか。辺りを見回して、目についたもの。
「ちょっと我慢してくれ」
「何で?…あいだだだ!」
「もうちょっとだ」
 手を伸ばす。左斜め前方、毛布があるんだ。ティーダを押しつぶす格好になってしまうが、あれさえあれば。
 気づいたティーダが取ってよこしてくれた。ありがとう。早速オレは毛布を広げて被る。頭ごと、ティーダも巻き込んで、端のほうで腕も覆うようにして。
「おーいのばらー、テレビ、見づらいんスけどー」
 それは今度こそ我慢してもらう他ないな。なんせこの体勢、思った以上だ。ティーダ、気づいてないのか?おまえ信じられないくらい温かいぞ。その上背中の防寒も完璧ときてる、さっきまでの苦労はなんだったんだろう。
 というか、外はまだ雪が降ってるんだよな。この部屋だって同じくらいに冷え切っていた。
 それなのにまるで、ひなたぼっこでもしてるんじゃないかと錯覚するくらい。
「苦しい。体重かけんな」
「ああ、悪い…」
 温かいし、安心する。ティーダおまえ、すごいな。あまりの心地よさにますますくっついていたくなる、というよりは体から力が抜けて、自然と前のめりになっていた。
「重いってば。フリオ?なあ、聞いてる?」
 ああ、聞こえてる。でも…だめだすまない、瞼が重い。
「ったく、しょうがないなあ」
 おまえにそれを言われるなんてな。オレは苦笑する。たぶんティーダも、同じように笑ってたんだと思うが、意識を手放したから定かじゃない。

2018/2

 



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -