注意NTストーリーネタバレってか流れなぞっただけ
厄介な相手だった。ケフカにアルティミシア、エクスデス。あっちこっちから魔法がばんばん飛んでくるし、避けきってやっと近づいたと思ったらワープされるし。どうやって攻めればいい?
「遅れんなよ!」
「誰に言ってんだっての!」
でも実際には、厄介なのは相手にとってって状況だった。
オレとオヤジで前衛、距離縮めたとこ。アルティミシアの魔法をオレは横にかわして、オヤジはそのまま突っ込む。力づくで押し返してるとこに割って入って攻撃、ガードされたけど、よし、相手の陣形崩せた。…って横から狙われてる、オレはわざと左右に大きくステップ。ケフカを引きつけながら揺さぶりかけて、
「沈め!」
そこにオヤジがズドンと一発。オレはすぐにターゲット変更、隙つこうとして現れたエクスデスに切りかかった。攻撃あるのみ。背中がら空きだけど大丈夫、そこはフリオに任せてるから。
まさに怖いものなしだ。…でもすごく不思議な感じもしてた。戦ってるのにちっとも不安じゃない、それどころか楽しいなんてこんなの、はじめてで。しかもオヤジがいる。そうだオヤジがいるんだ。
いきなり現れて、一緒に戦うことになった。今は視界に入ってなくても、どこでどんな動きしてるかわかるくらい、はっきりと存在を感じる。オレはなんかこう、体の内側がむずむずってしてしょうがない。でも集中できないわけじゃなくて、むしろいつも以上に力が出せてる。
負ける気がしない。一気に決めてやる、…ってうわ、なんだ?いきなり光が溢れて。
「ティーダ、ジェクト!」
足場が崩れるような感覚。落ちてく、いや浮いてる?わかんないけどとにかく、フリオの声がしたほうを目指した。
着地するのと同時に世界が開ける。
「リヴァイアサン!?」
「おうおう、召喚獣のおでましかよ」
そこにいたのは懐かしい存在だった。コスモスに呼び出されて戦ったあの頃、よく助けてもらった召喚獣。久しぶり、…って再会を喜んでる場合じゃないのは、肌をピリピリさせる空気でわかる。
っていうか、どうしたんだよいきなり。
「何か用ッスか?」
頭ん中、召喚獣独特の声みたいのが響く。うん?挑む、うんうん。全力で?あー…。
つまりはオレらの力、試したいってこと?
「上等だ」
オレが言ったはずなのに、同じ言葉が同じタイミングで、オヤジの声で聞こえた。…げ、ポーズまで同じだったような。思わず顔見合わせる。あ、フリオ今笑ったろ。
「頼もしいな」
「水中こそホームなんでね。見てるだけでもいいんスよ?フリオニール」
「それはさすがに」
「おいおまえら、かまえろ!」
あっとそうだった、リヴァイアサンってせっかちなんだよな。衝撃波みたいな咆哮上げて突進してきたのを避ける、危ない間一髪!ほっとしてる間もなく周りに水が噴き出して、リヴァイアサン自身も水の塊で攻撃してきた。
あーもう…こうなったらいよいよブリッツじゃん!
さすがに強敵どころの騒ぎじゃない、やばすぎる。さっきまでのコンビネーションはどこへやら、オレらは圧倒的な力で散り散りにされた。攻撃だって避けたあとかすめるように当てるので精いっぱい。
なのに、それでも楽しいってなんなんだよこれ。むずむずする。この感覚には覚えがある。思い出してる余裕なんてないけど。
それぞれがやるだけやるしかない。でもちょっとずつ効いてる…くそ、攻撃が激しくなった。なかなかリヴァイアサンに近づけなくて、オレはボールを投げつける。それでなんか引っかかるものを感じた。ブリッツ。まだわかってなかったけど、そうだこれだって思って。
ダメージ覚悟でバビュっと間合いを詰める。リヴァイアサンの体、尻尾のほうから駆け上がって、跳んだ。横っ面を連続で切りつける。反撃がくる、オレはフラタニティ突き立てて、大きく後ろに跳ねた。
行き場をなくしたエネルギーが体の中で暴れ回る。あと少しだってのに。リヴァイアサンが水呼び集めてて、でもオレの目の前にはちょうど激流の切れ間があって。今ここでこの力、ぶつけられたら…!何でもいい、何かないのかよ。
夢中で辺りを探る。そしたらいきなり周りの音が消えた。時間が止まった?違う、スローモーション。後ろのほうで気配が現れて動く。オヤジだ。オレは気づいた。
その瞬間。
オレの心と体、全部が、異世界に呼ばれた戦士でも、スピラを旅する召喚士のガードでもなく、ザナルカンド東A地区のチーム、エイブスに所属する、ブリッツボール選手だったころに戻る。
そのチームに昔、ジェクトって選手がいた。
ド派手なプレイスタイルで人気を集めた、エイブスきってのスター選手だ。試合に出ればゴール決めるのは当たり前。獲得したタイトルは数知れず。スタジアムは毎日ジェクト目当てのファンで溢れかえった、…そう、10年以上も前に、海で行方不明になるまでは。
文字通り伝説になったんだ、ジェクトは。当然、エイブスのエースを語る上で欠かせない存在になるよな。
それから9年後のシーズンのことだ。ジェクトの息子がエイブスに入団することになった。そいつ、次の年にはエースって呼ばれるようになるんだけど、周りの期待ときたらもう、それまでの比じゃなくて。まあ、そいつにとっては慣れっこだったんだけどさ。だってそれこそブリッツはじめたときから、いや、もっと前からずっとだったから。
そりゃいやになることもあったって。ジェクトの息子だから強くて当たり前、勝って当たり前。負けたときは逆にひどいもんだった。好き勝手言われて…でも絶対くじけなかった。
負けてたまるかって。超えてみせるって。
これでもかってぐらい練習した。泳いで泳いで、じゃないときにはずっと、スフィアの映像見てたな。
ジェクトの映像を。…口ではどんなに言ったってさ、憧れの選手だったんだ。
飽きもしないで、ジェクトが出てた試合の録画ばっか見てた。考えてたのは、こんな風に動けるようになりたいとか、結局はそういうこと。あとは、目立ちたがりやだけどたまには、人に見せ場をゆずることもあったんだな、とか。
試合してるときもずっとそのことが頭にあった。
ピンチのとき。ジェクトならこうするはず。チャンスのとき。ジェクトならはずさない。
ジェクトなら、
最高のパスをくれる。
本番だ。体が勝手に動く、…んじゃなくって、表現しにくいんだけど、頭で考えたとおりに体が勝手に動いたって感じだった。頭の中に刻み込んだ映像。そこから繰り返した、イメージトレーニングどおりの動き。
サイドスピンがかかったボールが、絶妙な軌道を描いて浮き上がる。オレはそれを思いっきり、オーバーヘッドシュート。
ゴール!そして世界がまた、光で包まれる。
戻っても安心はできなかった。待ち構えてた3人が、ここぞとばかりに魔法を打ち込んできたんだ。焦った。ただでさえ今オレ、うわうわ、卑怯ッス!避けるのに必死で、でもそれは長くは続かなかった。
空間の浸食。ああ、海が…。
「もう限界だ」
フリオの声ではっと我に返る。ケフカとアルティミシアなんてさっさと消えちゃって、オレらも慌てて近くの歪を目指した。先にフリオが飛び込む。あ…。
オヤジ、行かないんだ。聞かなくてもわかったけど一応、振り返る。夕日が少しだけ眩しかった。
「じゃあな」
おう。
…あのさ、オヤジ。オレ、あんたとブリッツするのが夢だったんだ。敵でもいいけど、できたら同じチームで。コーチと選手とかってのでもなくって、選手同士で一緒に試合したかった。二人でゴール決めれたら、それができたら…。
でもさ。
いろいろあったけど、あの日に戻れたとしてオレ、オヤジが海に行くのを止めない。なあ、オヤジだってそうだろ?…なーんて、こういうのは確かめるようなことじゃないよな。
言葉はいらない。
大事なものは全部、この手のひらの上に。
2018/1