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無題

ジェク+ティ+ヴァンネロ,oo(11章)

 このまま私たち、ずっと戦い続けなきゃいけないのかな。
 ヴァンに言ったら、何言ってんだよ、って怒られちゃいそうだけど…そんな弱音が思い浮かんじゃうくらい、この場所での戦いが長く感じるんだ。次元の迷宮。理屈とかよくわからないけど、すごく複雑で怖い場所。早く出たいって思うのに、奥へ奥へと進んでる、だから余計に不安になるんだろうな。
 それにここでは、襲ってくるモンスターもイミテーションも、今までとは比べ物にならないくらい強くて。一瞬たりとも気が抜けない。私は前線から一歩引いたところで、消耗した味方に回復をかける役目を担っていた。大事な役目。集中しなきゃ。
 そう思って武器を握りなおした瞬間だった。ヴァンが後ろから敵に狙われてる。その光景だけが目に飛び込んでくる。
 危ない!
 叫んでも間に合わない、…はずが、ヴァンのこと守ってくれた人がいた。あれはティーダさんだ。よかった…ほっとしてる暇なんてないんだけど、私は気づいてなかった。
 背中がぞくってして、できたのは振り返ることだけ。あ、だめだ。ぎゅっと目をつむる。
 がん!って音……あれ?
 覚悟した衝撃が、こない。
「大丈夫か、嬢ちゃん」
 驚いて動けないでいると、隣に人が立つ気配がした。この人は、…えっと、ジェクトさんだ。さっき合流したばかりのティーダさんのお父さん。助けてくれたんだ。
「あ…あの、ありがとうございます」
「いいってことよ」
 ジェクトさんはにかって笑って、私の頭をぽんぽんって撫でた。そして近づいてきた敵を、連続攻撃ですぐに倒してしまった。すごい。
 …って、見とれてる場合じゃないんだってば。私も役に立たないと。
「おいお前らあ!あともう少しだ、気合い入れなおせ!!」
 ジェクトさんが周りの人たちに向かって、大声を張り上げる。はい!返事をしたときには、私の中から迷いは消えていた。

「大丈夫か、パンネロ」
 ジェクトさんの言うとおり敵の数はすごく減ってたから、倒しきるまでそんなに時間はかからなかった。でもみんな疲れ切ってて、少し休憩しようってことになったんだ。私も地べたに座りこんじゃってた。
 それなのにヴァンったら、のんきな感じで話しかけてくるんだもん、もっと気が抜けちゃう。私だって心配したんだからね。そう言おうと思ったんだけど、ヴァンの隣にはちょうど、ティーダさんがいて。
「うん、大丈夫だよ。…ティーダさん、さっきはありがとうございました」
「へ?何がッスか」
 頭を下げずにはいられない。それくらい、さっきは怖かったんだ。
「ヴァンを守ってくれて」
「ああ!そんなのいいのに」
「そうだよ、なんでパンネロが言うんだよ」
「当たり前でしょ。ヴァン、ちゃんとお礼言ったの?」
「言ったよ。…そっちはどうなんだよ」
 ヴァンが私の後ろのほうを指さす。見ると、そこにいたのはジェクトさんだった。目が合って、私は慌ててまた頭を下げる。
「ジェクトだっけ、ありがとな」
「ちょっと、ヴァン!そんな言い方…」
 私の言葉を遮るように、ヴァンが肩に手を回してくる。わ、ちょっと!
「あん?なんだよおまえら、そういう仲だったのか。兄ちゃんも隅に置けねえな」
「ん、何がだ?」
 そんなのじゃないです、ただの幼馴染です。言うのは簡単だったけど、ヴァンはきょとんってしてるし、躍起になって否定するのもおかしいかなって思って、私は俯く。本当にありがとうございましたって、もう一度ちゃんと言い直したかったのに、もごもごした感じになっちゃって。
「礼ってんならこっちもだ。姉ちゃんの踊り、効くなあ。助かったぜ」
「うえっ、オヤジが言うと気持ち悪い!」
「ああん!?」
「ほらパンネロも呆然としちゃってる、かわいそうだろ!」
「あんだとお!」
 え、そんな。褒めてもらえた、うれしいって思ってただけなのに。ジェクトさんとティーダさんが言い争いはじめちゃった、どうしよう。
 …でもすぐ、違うんだってわかった。険悪な雰囲気なんて全然なくって、むしろ二人とも楽しそう。似たもの同士っていうのかな。怒り方が同じ。見てると温かい気持ちになる、私とヴァンはくすくすと笑う。
 ジェクトさんが仲間になってくれなくて、ティーダさんが落ち込む様子を見てたのもあったから、よかったって心の底から思った。
「…いいなあ」
 ふと、ヴァンが呟く。
「ティーダ、うらやましいな。オレもジェクトみたいなオヤジがほしい」
 胸がきゅってなった。ヴァン…切なくなるのと同時に、思い出す。お父さん。そばにいるだけでほっとできる、そんな存在。
「ええ!?」
 ぼんやりしてたから、大きな声がしてびっくりした。どうしたんだろ、ティーダさんがとってもまんまるな目をしてこっちを見てる。
「嘘だろヴァン!冗談きついッス!」
「えー?いいだろ。ジェクト、強いしかっこいいし」
「お。いいこと言うじゃねえか兄ちゃん」
「だろー。なあジェクト、オレらのオヤジになってくれよ」
 こういうとこさすがヴァンだなあ、はっきり言う、…って、私も!?…うん、でもそうなったら嬉しいな。
「おういいぜ。二人ともオレ様のガキってことにしてやらあ」
「はああ!?」
 ジェクトさん、いい人だなあ。
 …それはそうと、さっきからティーダさんがすごく焦ってる様子で、私も内心あたふたしちゃってた。
「な、何言ってるんだよ?ヴァン、正気に戻れって」
「オレは普通だぞ?」
「なおさらダメじゃないッスか!ヴァンはオヤジのこと知らないからそんなこと言えるんだ!こんなやつぜーったいにやめたほうがいいって!」
「いいじゃん別に、ジェクトもああ言ってくれてるし」
「ダメダメ!絶対ダメだって!」
 なんでそんなに焦ってるんだろ。たしかに私たち、ジェクトさんのことを何も知らない。でもとても悪い人には見えないよ。私には、ティーダさんがヴァンの言葉で怒っちゃったようにしか。
「なーにマジになってんだあ、おい。もしかしておめえ、妬いてんのかよ?」
 ジェクトさんが言う。
「オレだけのオヤジ様ってかあ?」
 本当に冗談で言ったんだと思う。私も、男の子だしそんなわけないよね、って気持ちで。けど、そうかもって納得できちゃう部分もあったんだ。
 だから、どうなんだろうってティーダさんを見てた。
「なっ…!」
 がっちり、石みたいに固まったティーダさん。
 その顔がみるみるうちに真っ赤になってく。…すごい、はぐれトマトみたい!
「何言ってんだこのクソオヤジ!!」
 でもそれくらい真っ赤になった顔を見れたのは、一瞬のことだった。どこから取り出したんだろう、ティーダさんは手に持ったボールを、すごい勢いでジェクトさんに向かって投げつけたんだ。きゃあ!私は思わず叫んじゃう、顔面なんて、い、痛そう…。
「そっかあ。じゃあ横取りしちゃだめだな。な、パンネロ」
 ヴァン、そんなのんきなこと言ってる場合じゃないよ。私は慌ててジェクトさんに駆け寄る。でもどうしたらいいか全然わからなくって。

 そのあと、ユウナさんが駆けつけてきてくれたときは、本当にほっとしたな。ジェクトさんにケアルかけてくれて、何があったのかは私が説明したんだけど、すごくびっくりしてた。
 でね、私にだけひそひそ声で教えてくれたんだ。ジェクトさんはブリッツボールのすごい選手だから、顔面でボール受けるなんて、本当なら絶対にないんだって。それだけすごいことが起きたってことみたい。
 それと、どこかに走って行っちゃったティーダさん、このことが瞬く間にみんなに広がっちゃって、しばらくの間、苦労してたみたいなんだけど…それはまた、別のお話かな。

2018/1

 



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