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嵐の予感

1210?+8,oo
※それほど関係ないけど11章後のつもり


 お礼させてほしいクポ!なーんて言ってたような、言ってなかったような…。
 そんくらい、記憶があいまいになってきたところだった。飛空艇に戻ったオレたちを、ドヤ顔のモーグリが迎えたのは。用意できたクポ!それがまさか。
「酒かよ!って感じだよな!モーグリのやつ、どうせならみんなで楽しめるもの用意してくれればよかったのにさー」
 そりゃ愚痴りたくもなるって。どこから持ってきたんだ…とかってツッコミは置いとくとしても、そのチョイスはおかしいだろ。しかも大人たちには大ウケ、すぐに宴会を開くことになったってのも納得いかない。そんなのんきな。飲まないやつがしっかりしてれば大丈夫だって、大人ってやつはどいつもこいつも…!
 オレだって酒ぐらい飲める。言い出さなかったのは、アーロンに怒られんのがやだから…じゃない違う、酒なんかに興味ないから。それにほら、酔っぱらいに絡まれでもしてみろ。たまったもんじゃないッス!
 というわけで抜け出してきたオレは、たぶん同じようなこと考えて、同じように抜け出してきたスコールと、デッキの隅のほうに落ち着いた。まあ、スコールが一人でどっか行こうとしてるの見かけて、追いかけてきただけなんだけど。こんな見晴らしのいいとこ選ぶなんて、律儀なやつだよなスコールって。
 あ、すっげーいやそうな顔してる。一人でさびしそうだったからきてやったのに、…そんなこと言ったら絶対、頼んでないとか、余計なお世話だとか言うんだろうな。
「スコールは酒飲まないのか?」
 だからとりあえず、あたりさわりのないとこ。
「…好きじゃない」
 無視されるかなーって思ってたから、返事されてちょっとびっくりした。へー。でもそれってさ、飲んだことはあるってこと?っていうのには返事なし。
「あんたは?」
「オレ?飲んだことないッス」
 そもそも、ザナルカンドじゃ未成年は飲んじゃだめだった。同い年で飲んでるやつはちらほらいたけど、オレ、ブリッツの練習とかでそれどころじゃなかったし。スピラでも別の意味でそれどころじゃなくて。
 こうして思い出してみると、関わること自体あんまなかった気がしてくる。それこそアーロンが飲んでたくらいじゃないか。
 んん?にしてはオレ、好きじゃないっていうより嫌いだってはっきり思ってる。どうしてだろ。なんかもやもやすんな。
「酒ってそんなにおいしいものなんスかね…」
「あ、なんかいたー」
 首をひねってたらいきなり、間延びした声が後ろからした。振り返るとそこには。
「ヴァン」
「二人とも何してるんだ?」
「別に何も…あー、メシ食ってるけど」
「お、いいじゃん。オレにもくれよ」
 言い終わるか終わらないかのとこでもうつまんでる。ここぞとばかりに奮発して作られた料理たち、これだけは持ち出してきたんだ。でもあっちいけばもっとあるぞ、…って。
「ヴァン、おまえそれ」
「んあ?…あ、これ?いいだろ、くすねてきたんだ」
 ごとっていう音をさせて、ヴァンが左手に持ってたそれを床に置いた。でっかい酒瓶。くすねてきただって?オレとスコールは、思わず顔を見合わせる。
「ケチだよなあ。おまえは飲んじゃだめだって言うんだぜ。あんなにいっぱいあるのに。とりあえずこれだけ、また後でもらいに行くんだ」
 いっぱいあるとかじゃなくて、みんなで決めたんじゃん…あ!ヴァンが栓を開ける。ちょっと待て、あー!ラッパ飲みかよ!
 それはもうごくごくってすごい飲みっぷりで、びっくりっていうかぽかーんっていうか。ちょっと見とれちゃったっていうのはあるかも。スコールなんて今まで見たことないような顔で固まってる。あ、おまえも飲んだことないんだろ。
「ぷはーっ!」
 うわー。
「うめー!やっぱ1本じゃ足りなかったなー」
 やばい。一気に半分以上減ってるッス。瓶の中身と、ヴァンを見比べる。こんなに減ってる、けどヴァンに変わった様子はどこにもない。思わずまじまじと覗き込んじゃって、目が合った。
「なんだ?」
「え…いや…そんなにうまいのか?」
「うまいけど。何だよティーダ、酒飲んだことないのか?」
「おう」
「えっマジかよ!もしかしてスコールも?」
「……」
 スコールがふいっと視線をそらす。やっぱり。
「飲むんだ、へえーって感じッスよ。なあ」
「…」
「何でだよ。別に普通だろ」
 こういうの、やっぱ住んでた世界の違いってことなんだろうな。スコールの世界はオレのザナルカンドと似てるのかも。ヴァンは砂漠の国出身だって言ってけど、くわしく聞いたことなかった。
 違う世界。普段はそれほど気にしないけど、こういうとき、違うんだ、すごいなって思ったりして。
「じゃあ飲んでみろよ」
 こいつのすごさはまた別のところにある気がしなくもないけど。ヴァンは当然のように言って、酒瓶をオレたちの真ん中にどーんと置いた。マジッスか。緑色の瓶、揺れる中身。どうしよう、見つめながら迷う。
「オレはいい」
 あ、スコールずるい。
「平気だって、少しだけなら。男らしくないぞ」
「そうだそうだ」
 はやしたてると、他人事だと思ってとでも言いたそうに睨んできた。そのとおりだ悪いか。早くしろ、飲め飲め、二人がかりで吹っかける。
 するとスコールは大きく息を吐いて、瓶を手に取った。ついにいくか!?
「…って、そんだけ?」
 一口、瓶を傾けたと思ったらすぐ戻した。どうしたんだよスコール、…って顔!うわあめちゃくちゃまずそう!ぷはっと吹き出す音が隣からして、ヴァンが腹を抱えて笑い出す。悪いとは思ったんだけど、オレも。
「あはは!おもしろい顔!」
「そんなに苦かったのか?スコール、おこちゃまだなー」
 調子に乗って笑いまくってたら、おまえら…って低い声がして、スコールがすごんできた。ごめん、ごめんって。あーでもやばい、さっきの顔しばらく忘れられそうにない。
「ん!」
「え、何?」
「次はおまえだろ」
「…あ、あー」
 ぐ。…くそ、実はこのまま、ないことにできないかなって思ってたとこなのに。スコールが瓶を押し付けてくるので、仕方なく受け取る。中身これだけしかないのにずっしりと重たい。
 口んとこ見つめながら、オレは沈黙。なんでだろ。さっきも感じたもやもやがまたするんだ。
「ティーダ?なーに緊張してるんだよ。こんなの水と一緒だって」
 ヴァンが茶化してくる。スコールなんてバカにしたように見てくる。こんなのなんともないって自分でも思うのに。
「そういや、アーロン…だっけ?それとおまえのオヤジさんも、仲よく乾杯してたぞ」
 ふと何気なしに言われた、ヴァンのその言葉で、あ、ってなった。
 …そっか。そうだオヤジだ。子供のころ、オヤジの酒癖の悪さのせいでたくさんいやな目にあったのを、思い出したくないのに思い出す。飲んでるって?酒やめたんじゃないのかよ。スフィアの映像、酔ってシパーフ切りつけたなんて、オレまで恥ずかしかったんだぞ、クソオヤジめ。別の意味で、もやもや、違うむかむかだ。
 飲んでやる!ヤケになって瓶を持ち上げた、そこでもう一つ気づいた。
 これ飲んだら、オレどんなふうになるんだ。
 …怖い。
「怖くないって」
 あっという間のできごとだった。
 ヴァンがすぐ横に来て、オレの手から酒をとる。ぐいっと一口。なんでそんなふうに飲めるんだよ。あれ、飲んでない?引っ張られて、近づいてきて。
 流し込まれた。何が起きた、なんて思ってる場合じゃなかった。熱い焼ける。なんだこれ、口ん中が、のどが。ヴァンは水と同じだって言ったけど、うそだ。自分の中のどこにあるのかはっきりわかる。水とは全然違う。すとんと腹に収まって、そこでも熱い。
 ヴァンが離れてく。オレは何も考えらんない。こんなことしたのに、ヴァンは。
 なんていうんだろ。ぱんぱかぱーん…?

 どさりと、ティーダの体が横に倒れる。
「あーあ」
 その姿をなおも、あっけらかんとした様子でヴァンは眺めていた。悠長なことにさらに酒を煽るので、オレは呆然とするしかない。
 ありえない。今何が起こったんだ。ティーダの優柔不断さに業を煮やした、それはわかるが、だからってそこまでするか?…いや待て落ち着け。それ以前にだ、いくら初めての酒だとしても、これくらいで倒れたりしないだろ、普通。
「貸せ」
「あ、何すんだよ」
 底をつかせようとしているのを奪い取る。申し訳程度に張られたラベル。あった度数は、…60度、だと?
 オレは信じられない気持ちでヴァンを見つめた。こいつ。ちっとも堪えてない、酒豪にもほどがあるだろ…というかこんな酒持ってくるなんて、こいつもだが、あのモーグリだ。いったいどうなってる。
「ほしいのか?すぐに持ってきてやるよ」
 違う。オレは頭を抱えた。そんなことより、ティーダのことをどうにかしてやるのが先だ。そういう意味を込めて指をさす。
「そっか、そうだな」
 やめろ。何でにんまり笑ってるんだ。オレを見るな…くそ、さっきからやけに頭が痛い。しかもぼーっとするような。…オレはバカか。あの酒だ。オレも口に含んだ、だがあの程度でこんなになるなんて、オレは下戸だったのか。
 そんなことはどうでもいいが、とにかくティーダを何とかしないと。大体、こんなとこ誰かに見つかったりしたら。
 …何でこんな目に合わなきゃならないんだ。オレは手のひらで顔を覆った。ああ、もう何も考えたくない。

2018/1

 



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