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無題

現パロ17歳の日常
山なし落ちなし意味果てしなくなし


「ありがとうございましたー、またお越しくださいませー」
 いつもなら気にも止めない店員の声ですら、やけに嫌みに聞こえる。これも末期症状のひとつか?前を歩く二人、ティーダとヴァンに続いて自動ドアを通りながら、自嘲気味にそんなことを考えていた。
 事の発端はこいつらだ。…いつものことだが。
 今日の場合は、帰り道の暇を持て余したこいつらが突然、肉まんが食いたい、と言い出したことがきっかけだった。スコールも食いたいだろ?別に。じゃあ勝負しようぜ、負けたやつがみんなにおごるってことで。じゃあってなんだ、じゃあって…。それいいな、何の勝負にする?待て、まだやるとは言ってないだろ。
 当然オレの心の声がこいつらに届くはずはなく、気づけば勝負がはじまっていた。一番最初にくしゃみをしたやつが負け。今週になってヴァンが発症したことで、今や揃いも揃って花粉症、全員がマスク姿だったことからの安易な発想だ。それはいい…がマスクをはずそうとするな、隙アリ!じゃない、やめろ二人がかりなんて卑怯だぞ!離せ、触るな鼻をくすぐるな、…クソッ。
 思い出すだけで頭を抱えたくなる。ほんの少し軽くなった財布に、あいつらの手の中に握られた肉まん…ティーダはあんまんだったか…それだけのことだ。いや問題はそういうことじゃなくて。
 オレは何をしてるんだ、ということだ。このところよく考えるようになった疑問が、またも脳内で幅をきかせ出した。
 今日に限った話じゃない、毎日がこいつらのせいで騒がしい。オレの平穏な登下校の時間はどこへ行ってしまったんだ…昨日だって、足の悪いお年寄りに、積極的に話しかけにいったティーダに付き合わされて駅から遠ざかることになったし、先週にはヴァン、あいつが傘を忘れたと言ってオレのほうに入ってこようとしたせいで、結局は全員で濡れ鼠になってしまった。
 つまるところ一番の問題は、面倒を嫌うくせになぜ、面倒ばかり起こすこいつらと一緒にいるのか、ということだ。
 この答えを出せないでいるのにどうしようもなく苛立つ。元からオレは一人でいるたちだった。一人でいるのが好き、というよりは楽で、群れるのが苦で。
 そんなオレがなぜこいつらと一緒にいるのか。思い返せば、段階は踏んだような気がしなくもない…ような。たしかにいきなり馴れ馴れしくされたわけじゃなかった。たまたま話すことがあって、当たり障りのない会話をして。なぜかは知らないが、だんだんと話しかけられることが増えていったんだ。毎回反応してたわけじゃない、それなのに。
 やけに構ってくるな、こいつら。オレが気がついたときにはすでに、「こんなこと」になってしまっていた。
 何でだ。…思考は堂々巡り。自分に対してもそうだが、こいつらオレと一緒にいて何が楽しいんだ、というのも常々思っている。何もしなくても勝手にそこにいる。オレがしゃべろうが黙ってようがおかまいなし、ただし巻き込まないではいられないらしく。
「スコール」
 こいつらはよくオレの名前を呼ぶ。無視しても、何回でも。それでよからぬことにオレを巻き込む。
 まったく、それをわかっていてこいつらを突き放そうとしないなんて、オレも末期としか思えない。
「なあスコールってば!」
「…何だ」
 ましてや放っておけない、なんて。
「ヴァンが変なこと言ってんの。肉まんが味しないとか何とか」
「本当だって。これ不良品だ」
「んなわけないね、どこからどう見たって普通の肉まんじゃん」
「じゃあ食ってみろよ」
 どこか余所でやってくれ、そう思ってるはずなのに、目の前で繰り広げられるやりとりをおとなしく見守るオレ。
「あむ。…んー?別に普通だけど」
「マジで?っかしーなあ」
「スコールも食ってみろよ」
 ティーダがさも当然のように、食べかけの肉まんをオレの口元に近づけてくる。押しつけるような勢い、しょうがなく一口。
「…」
「な、普通だろ。ヴァンの舌がおかしいんじゃね?」
「ええー」
 実際ただただ普通の肉まんでしかなく、何を騒いでるのかよくわからないというのが率直な感想だった。けれど不満げにするヴァン。何かが引っかかる。鼻づまりで味覚がおかしくなるというのはよくある話だ。けれどそれはオレやティーダも同じ、ヴァンはもともと特徴的な好みをしているとはいえ、それほど味覚音痴というわけでもなかったはずだが…?
 そしてはたと気づく。
「おい、貸せ」
 オレははたき込む勢いで手のひらをヴァンの額にかざした。…やはりそうか。
「え、何…」
 何じゃない。おまえ、熱があるぞ。それも高熱。
「病院に行くぞ!」
「何でだよ?」
「…あ!本当だ、ヴァン、おまえすげー熱出てる!」
 バカだとは思ってたが、ここまでバカだったとは。おかしいとは思ったんだ、いきなり花粉症になったと言ってマスクをし出すなんて。おまえのは風邪だ、それくらい自分で判断しろ、大体バカは風邪を引かないんじゃなかったのか…そうかあれは、引いたことに気づかないという意味だったんだな。おい暴れるな、ティーダ手を貸せ、男が注射の一本や二本でガタガタ抜かすな!

 結局その後、嫌がるヴァンを引きずって病院に連れて行ったあげく、なぜか看病までする羽目になってしまった。…まあ、文字通り熱に浮かれてハイテンションになったヴァンに振り回されたことや、ティーダが作った雑炊が塩辛すぎたことは、百歩譲って許してやってもいい。
 だが。お約束とでも言うように風邪をうつされたことに関しては、絶対に納得してやらないつもりだ。オレやティーダがうんうん唸ってる間に、ヴァンが一人でぴんぴんしていたのだからなおさら。
 …だからオレは何をしてるんだ。こんなのが日常なんてどうかしてる、平穏な時間よ、帰ってきてくれ。

2019/4

 



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