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ハグ

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 ぱちぱちと薪が爆ぜて、火の粉が舞う。顔面に熱が吹き付けるので思わず目を背けた。…うん、だいぶ火力が強まってきたみたいだ、このくらいでいいかな。
「できたよ、フリオニール」
「ああ、ありがとう。そしたら、えっと…」
「こっちの鍋でいいかい?」
「…ああそうだ。頼むよ」
「了解」
 今は夕飯の準備中、フリオニールと手分けして作業しているところだ。といっても僕の役割といえば、指示に従って火を準備したり鍋をかき回したり、助手といったところなのだけれどね。主だったところはフリオニールに任せている。彼は今木の実の分厚い皮をナイフで剥くことに、苦戦しているようだ。
「いつもすまないね」
「え?…よし、とれたぞ…すまないセシル、今なんて?」
「ふふ。いや、大したことじゃないんだけど。フリオニールは頼りになるなあ、と」
「う!」
「…!だ、大丈夫かい!?」
「……あ、ああ大丈夫、少しかすっただけだ」
 本当に?僕にも見せてくれ、…血は出てない、か。すまない、邪魔をするつもりはなかったんだが。
 その、ほら。こういったことはいつも君に任せきりだから、ちょっとした感謝の気持ちを伝えたかっただけなんだ。
「感謝されるようなことじゃないさ。でも、そうだな、そう言ってくれると嬉しいよ」
 フリオニールははにかむように笑う。僕はほっとして、…鍋の中身が沸騰していることに気づくのが遅れたのは、彼には内緒だ。
 ぐつぐつと煮立つ中身は間一髪、間に合ったらしく焦げている様子はない。文句なしにおいしそうだ。野営でこれほどの食事をとれるなんて、本当に感謝してもしきれないよ。僕もできないこともないんだが、こうはうまくいかないというか…フリオニールには、誰しも得手不得手があるからと言ってもらっている。
 僕たち4人の間で自然とできあがった役割分担。たしかに、クラウドに食事を任せるのは僕も反対だな。
 そういえばティーダが意外にも料理が上手で…あ、いや、意外などと言ってしまっては失礼なのだけど。ただ彼の場合、野営での炊事は苦手なんだそうだ。レンジやらレイゾウコやらがどうのと言ってたっけ…それで結局、フリオニールの役割に落ち着いてるというわけなんだ。
「食べられそうかな?」
「うーん、どうだろう。少し固いな、焼いてみるか」
 とはいえ野営の炊事で一番重要かつ困難なのは、何といっても食材の調達だろう。フリオニールが木の棒に指して火にくべはじめた木の実は、今回新たに見つけてきたものだ。それが焼ける頃には、追加の薪と水を調達しに行っている二人も戻ってくるかな。
 それまでのんびりしていようと、二人で他愛ない話をしていたときだった。本当にのんびりとしていたから、フリオニールの手元でとんでもないことが起きていることに気づくのが遅れてしまったんだ。
「なっ」
「フリオニール!」
 あの木の実。灯火のように赤く燻って…。
 はじけた。
 寸でのところ、フリオニールを抱えて離れることができたのは、幸いだった、…というよりは、大げさな反応だったといたたまれなくなるほど小さな衝撃に過ぎず…。
「二人とも何してんの!?」
 いろんな意味で呆然としてしまっていた。
 その声ではっと我に返る。ティーダにクラウド、戻ってきたんだね。…ん?ティーダは目をまん丸にして、クラウドは逆に目を細めて。どうしたというんだい?さっきの音が聞こえたのかそれとも、被害が別の場所に及んだとか。
「せ、セシル、セシル…!」
「…ん?」
 あ、そうか。フリオニールのことを抱えたままだった。
 慌てて離す。たしかに今の体勢、勘違いされても仕方ないかもしれない。違うんだ二人とも、拾ってきたあの木の実に、僕たちは驚かされたというだけなんだ。
「…ずるい」
 取り繕おうとしていたから、ティーダが小さく呟いたことの意味が、最初はわからなかった。
「フリオばっかずるい!オレもセシルにぎゅってされたい!」
 そう直に言われれば理解できるけど、さすがに驚かずにはいられない。え!?僕とフリオニールはほぼ同時に、同じような奇声を上げる。
「なーんて、冗談ッス!」
「ええ!?」
「最初から見てたもん。だからちゃんとわかってるって、ちょっとからかっただけ」
 な、何だって?ぴきんと硬直する、同じような反応を見せる僕たちがおもしろかったんだろう、ティーダは腹を抱えて笑い出した。クラウドもやれやれと肩をすくめて見せる。…納得いかない。そんな心地になったのは、きっとフリオニールも同じはずだ。
 僕はといえば加えて、意地の悪い気持ちがすぐにわき上がってきていた。お返しとは大人げないな、けれどしてやったりと満足げにするティーダを、どうしても放ってはおけなくて。
 そろりと近づいて、
「さーてと。晩飯は何かな……わっ!」
 抱きしめる。
「せ、セシル!?何すんだよ、さっきの冗談だって言って…」
「ふふ、遠慮しない、遠慮しない」
 こうしてほしかったんだろう?僕こそ冗談のつもりが、案外その考えがしっくりくることに気づいた。
 ティーダはこう見えて、人との距離を注意深く測っている節がある。彼の僕に対する態度とフリオニールやクラウドに対するそれは違う。…前から思ってたんだ。僕に対してももっと甘えてほしい。それこそ遠慮しないで、恥ずかしがらないで、僕だって君のことを、弟のように思っているんだから。
「ぎゅってされた感想は?」
「…そ、そんなん聞くなよ。別に、…いやじゃないけど」
 おずおずと抱き返してくる腕が愛おしい。僕より一回り小さいといっても、がっしりとした力強い体つきだ。それなのにわき上がってくるこれは、父性というやつだろうか?
「セシル、そのくらいにしておくんだ」
 フリオニールが声をかけてきて、名残惜しくも体を離した。縮こまって顔を赤らめるティーダ。やはり大人げないけれど、満足したというのが正直なところ。
「クラウドもどうだい?」
 提案は蛇足というより、僕の勘違いでなければの話なんだが、察したのだと言ってもいいかな?…うん、合ってたみたいだ。申し訳程度に一瞬だけティーダを抱き込むクラウド、その仕草がなんとも彼らしくて、思わず笑みがこぼれる。
「あーもーこうなったら、フリオも!」
「…え、あ、いやオレは」
「うっせー逃げんなっ」
 あたふたして後ずさるフリオニールを、ティーダが追い詰めてく。よくわからないことになったなあと思いつつも、その光景を微笑ましく見守る僕たちだ。
 …あ、もちろん、次はクラウドの番だってこと、忘れてはないよ。さあほら。腕を回して背中をぽんぽん叩くと、クラウドも同じようにしてくれた。こうして友情を確かめ合うというのも、たまにはいいものだね。
 クラウドもあとでちゃんと、フリオニールのこと、抱きしめてあげるんだよ。

2019/1

 



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