text1 | ナノ  

Deep down2



「…おい……おい!」
 誰かの声がして目が覚める。
 ここどこだとか、どうなったんだとか。余計なこと考える前にオレがしたのは、体がちゃんと動くか確かめるってことだった。うん。手もある、足もある、ちゃんと動く。慌ててもどうにもなんないからな、自慢じゃないけどオレこういうのに慣れてるんだ。…本当に自慢じゃないけど。
「ティーダ、大丈夫?」
 そう言いながら覗き込んできてくれた顔を見て、オレは心の底からほっとした。ユウナ。無事だったんだな、…あれ、でもさっきオレを呼んでたの、ユウナじゃないよな?
「起きやがったか。ったく、あんなんでぶっ倒れちまうなんてよ、情けないやつだぜ」
「げっ、オヤジ」
「あ?げっ、たあなんだ、おい」
 そのまんまの意味だ。何であんたまでここにいるんだよ。吸い込まれた?情けないのはどっちだっての。起きて最初に目に入ったのがあんたの顔じゃなくてよかったぜ、…って、そんくらいにするとして。
 起き上がって改めて、状況確かめてみた。わ、みんないる。まだ目が覚めてないやつもいるみたいだ、やっぱりあそこらへん探索してた連中、まとめて吸い込まれちゃったんだな。揃いも揃ってって感じだけど、まあ、これだけの人数がいるっていうので逆に安心してもいいのかも。それより問題なのは…。
 この場所だ。今まで経験してきたどこよりも、飛び抜けて変だって言い切れるくらい、変な場所。
 まず、明かりがない。見渡す限りはどこにも、太陽はもちろん、星とかっていうのも。そのくせちゃんと見える。たとえばみんなの姿だったり、一緒に吸い込まれてきた瓦礫とかが散らばってるのだったり。
 次に地面だ。あるんだかないんだかって感じで落ち着かない、浮いてるんじゃって錯覚しそうになる。空だって…っていうか空って言っていいのか?どこまでも真っ暗で何もなくて、どっちが上でどっちが下なんだ?…頭ぐるぐるしてきた。
「大丈夫か?」
「あ、ロック」
 ちょっとびっくりした。気配消して後ろから近付くなって前から言ってるのに。
「あんまきょろきょろしないほうがいいぜ」
「そうみたいッスね。…何なんだろうな、ここ」
「さあな。ま、長居しないほうがいいのは確かだろ。めぼしいものもなさそうだしな」
 うん。でもどうしたら…言いかけたオレを遮ってロックは、あれを見な、って親指くいっとさせた。
 言われたとおり見てみると、シャントットにティナに、ビビに…黒魔法が得意なやつらだ。輪を作るように並んで、何か囲んでる?
「オレらが入ってきた穴らしい。吸い込む力が弱まったから、何とかなりそうなんだとさ。だからそれまでおとなしく…」
「…っ!?」
 背筋があわ立つ感覚。
「そうはいかないみたいッス!」
「だな!」
 オレたちはそれぞれ後ろに飛び退いて、攻撃してきた何かを避けた。
「おいみんな、敵だ、構えろ!」
 ロックが言うまでもなく、みんなもう臨戦態勢に入ってる。オレたちが襲われたのと同時にあちこちで同じやつが出現したらしい。
 真っ黒な敵。この世界は変だけど、こいつらは意外と普通じゃんってのが第一印象だ。大きさとか形とかはよくいるゴブリンに近い。けど表面がうねうねしてるのと、目だけ光ってるってのが気持ち悪い…光?そういえば。
「こいつらもちゃんと見えるな」
「ありがてえこった。おい、ぐずぐずしてんじゃねえぞ」
 横を通りながらの余計な一言。わかってるっての、でもオヤジの言うとおり、出遅れたのは確かだ。とりあえず一番近くにいる敵切りつけて…うげ、ぐにゃっとした嫌な手応え。ってそんなこともう、構ってられないんだけど。
 すっかり乱戦になってた。これだけの人数が揃ってんだから当然、しかも相手の数も相当とくればなおさら。味方に当てないように立ち回らないと、って言ってもオレができることといえば、走りながら切ったり蹴ったり殴ったり、いつもと同じだ。
 何匹かひきつけるつもりで、続けざまに攻撃を仕掛けた。さすがに一撃とはいかないけど、ダメージは通ってる。順番に片付けて、隙ができないように一回大きく跳んで。
 着地、そしたら背中合わせに同じく、誰かが着地してきた。
「気張りすぎだ」
 冷静な声。クラウド?
「でもさ、この数!」
「全部を相手にする必要はない」
 そうは言うけど今ちょうど、2匹同時に襲いかかってきたとこッス!任せたほうがよさそう、一瞬の判断、クラウドが大剣ぶん回すのに合わせてオレも180度回る。
「オレたちがすべきなのは…」
「出口ができるまでの時間稼ぎ、だよな」
 わかってるんだ、でも…目の前に迫り来る敵。オレはちらっと後ろを振り返った。クラウド越しに見えるシャントットたち、魔力が集まってる、あとちょっとな気がする…あっちにこいつらを近付かせちゃだめだ。もっとうまい方法、ないッスかね?
 それなら、とばかりにクラウドが構える。
「ふっ!」
 オレは垂直跳び、クラウドが振り向きざま放った画竜点睛の竜巻が、敵を巻き込んでぶっ飛ばした。さすが!すかさずオレも追撃、もっと遠くへ。
 勢いに乗るぞ、…っていいとこなのに、何だ?敵が変な動きし出した。うねうねしてない?え、合体した!?マジかそういうタイプかよ、1匹2匹どころじゃない、やっつけた後の残骸も合わさって、どんどん大きくなってく。
 あっという間に、でっかいプリンみたいのができあがった。でっけー…動きはのろま、だからそれはいいけど。厄介なのは見た目通りの重さと頑丈さだ。何人かで一気に攻撃してもびくともしない、このままじゃまずい。こいつの進む先には出口が…!
「オレに任せろ!」
 その声は後ろのほうから。とたんに空間が歪む感じがして、でかプリンの様子が変わった。フィールドダウン。レイルだ、助かる!これなら吹き飛ばせなかったとしても、十分押し返せる。
「…うっ……」
 そんなときだった、オレは膝から崩れ落ちた。
 情けないことにわけわかんないまま、前のめりで倒れ込む。かろうじて手をついて、でもすぐには起き上がれない。どういうことだよ。…体力が?ダメージ食らった覚えはないぞ、なのに体に力が入んないくらいなくなってる。
「しっかりしろ!」
「……っ!」
 考えてる暇なんてないのに呆然としちゃって、そばに来た誰かの声で我に返った。やたらでかい声。何でか力が湧いてくる、…ラムザか、どおりで。起き上がるのに手を貸してくれて、アイコンタクトで頷き合う。そうだな。今はとにかく、こいつをどうにかするのが先だ。
 オレとレイルとラムザ。3人でこのでかプリンやっつけちゃおう。
「出口開いたぞ−!」
「早く飛び込め!」
 お、やりい!待ちに待った知らせ、気合い入れ直すのにはもってこいのタイミングだ。もちろんすぐにでも出たいとこだけど、出口はみんなで一気に通れるサイズじゃないっぽい。つーかあの辺も乱戦状態で詰まっちゃってる、とくればますます、こいつを近寄らせるわけにはいかないよな。
「特大の一発お見舞いしてやる」
「よし、合わせよう」
「了解!」
 じゃあ周りのザコはオレの担当ってことで。まとめて片付けてやる、でかプリンの攻撃避けながら走って、いい位置につけてからとっておきのエナジーレインお見舞いしてやった。その間にラムザの援護をうけてレイルの準備も完了。
 宣言通りの特大の魔力が、でかプリンを包み込む。
「ぶっ飛べ!」
 レイルに合わせて、オレもラムザも渾身の一撃をぶち込んだ。でかい図体が信じらんないくらい遠くに吹き飛んでく。
 オレらにかかればこんなもんッス!…って喜んでる場合じゃないんだって、オレたちも早く出口に向かわないと。
「行こうぜ!」
「ああ」
 振り返った出口では、あと数人が残るだけってとこになってた。でかプリンのせいで随分離れたとこにいたらしい、オレらが近付いてるうちに残りも脱出してく。地面にできた穴に飛び込めばいいのか?ここにきたときには空にできた穴に吸い込まれたから、反対ってわけだ。
「あなたたち、早くなさい!」
 あと少しってとこ、ラムザの背中越しにシャントットがこっちに向かって言ってきて、穴に飛び込んだのが見えた。
 待っててくれてもいいじゃん!そんなことを思ったのは、もう大丈夫だろなんて気が抜けたからだ。ラムザが飛び込んで、あとはオレとレイルだけ。オレら頑張ったよな。もっと労らってくれてもいいのに、なあ、レイル。
「…レイル?」
 すぐ後ろにいるはずだった。だからちょっとのつもりで振り返って、そしたら誰もいなくて。あれ、追い越された?まさか。前を向いてもやっぱりいない、オレは焦ってぐるっと一回転する。嫌な予感がしてた。
 的中なんてしてほしくなかったけど、…いた。離れたとこでうずくまってる、周りには敵が。
 くそ!
「レイル!」
「……くっ…」
 慌てて駆け寄る。一瞬だけ覗き込んだ顔はびっくりするぐらい青白くて、さっきオレがなったのと同じ状態だってのはすぐわかった。でも立ち上がるのを待ってる暇も、回復してる暇もない。肩貸して、ほとんど持ち上げる格好で立たせる。
「体が……」
「わかってる。とにかく出口に」
 って出口、どこだ?…あった、けどめちゃくちゃ小さくなってないか?
 そういえばこれ、シャントットたちが開けたんだっけ。でももういないじゃん。気づいたらオレは何でか、笑いたくなった。いきなりピンチになりすぎたせいで思考が麻痺、っていうかバカになっちゃったんだと思う。
 本当にバカだ。それは致命的なミスだった。
「ぐあっ!」
 後ろからの攻撃で、レイルもろとも叩きつけられて転がる。すぐに起き上がれたのは不幸中の幸いってやつ?でもそれでオレが見たのは、オレたちを取り囲もうとする敵と、なんか触手みたいな長いやつ、…ここにきて新手かよ。ちくしょう…それに今にも消えちゃいそうな出口と。
 ぎゅいんっていう、血が遡るみたいな感覚がした。…ああこれ、知ってる。ブリッツやってるときなんかにくるとたまらないやつだ。音が消えて、周りの世界がスローモーションになって。
 オレは賭けに出ることにした。
 横に転がってるレイルの体を両手で掴んで、投げる、おまけに蹴る。勢いがついたその体がどこに行くのかは見ないまま、オレ自身は適当な方向に突進する、剣をがむしゃらに振り回す。何発か食らったはず、でも止まってやらない。
 ずきずきとした痛みが戻ってくるまで、オレは走り続けた。気がつくと…賭けには勝った、かな。うん。オレの勝ちだ。レイル脱出させられたし、生きてる。オレはざまあみろって気持ちで周りを見渡しながら、今度こそ笑ってやった。こんなにたくさんいんのに、みんな逃げたぞ、悔しいだろ。
 あとはオレだけだ。よーし…逃げ場がない?何言ってんだよ、出口はここだけとは限んないだろ。体力?ポーションがあるぞ。オレひとり、身軽でいいじゃん。
 こんくらい余裕だ。大丈夫だって。…そう言い聞かせるしかない。こんなとこでくたばってたまるか。

 約束したんだ。ちゃんと守るって。

2018/11

 



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