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オヤジが調子に乗っている

・FF10ベースのねつ造ありき
・突っ込みどころ多
・モブ要素


 水平線から日が昇る。街の灯りがひとつひとつ消えて、世界が赤く染まって。
 いつも通りの朝。でもちょっとだけ違うのは、気の持ちようってやつのせいだった。深呼吸してみる、うん、空気がうまい。こんないい朝は久しぶりだ。ちょっとやんなきゃいけないことがあってさ、早起きしたんだけど。今日はとある計画を実行する日。その準備ってことで。
 清々しい気分でいられるのは、ここまでがうまくいったっていうのと、絶対成功するって確信があるからだと思う。
 …ふふふ。謝ったって遅いからな、オヤジ。目に物見せてやる。覚悟しろよ!

「朝だぞ、起きろーっ!」
「んあ……」
「起きろっつの!おーい!」
 思いっきり大声を張り上げる。うちは大丈夫だけど、場所が場所なら近所迷惑ってぐらいの声量だ。
「…んだよ……まだはええ……」
「早くない!今日はデーゲームだぞ」
「あー……」
 情けないことにこれ、毎朝のお決まりの光景だったりする。オヤジの寝起きの悪さときたら呆れることに、目覚まし時計が何個あっても意味ないくらいなんだ。仕方ないからオレが、こうやって大声出したり体の上に飛び乗ったり、最終手段殴ったりして、起こすようにしてるってわけ。
「オヤジ、いい加減にしろよな。今日は監督に、試合前のミーティング絶対出ろって言われてただろ」
「あん…?んなの関係ねえよ、オレ様ぐらいになったら…」
「作戦なんかなくっても勝てる、だろ。はいはい。わかったから、早く起きる!」
 うだうだ言い訳すんのもいつものことだ。らちが明かないから、オヤジの無駄にでかい図体転がして、ベッドから落としてやった。ったく、何で朝からこんな体力使わなきゃなんねーんだよ…。これでだめだったら水でもぶっかけてやろうと思ってたとこ、さすがにオヤジ起きることにしたみたいだ。
「ってーなー…おい、もっと優しく起こさねえか」
「優しく、ねえ。たとえば?」
「おはようのチューとかよ」
「ふざけてねーで、もう朝メシできてっから、早く行くぞ」
 何がおはようのチューだ。夫婦にでもなったつもりかよ、冗談じゃないっての。本当ならもっとこう、つっかかるとかしてたとこだけど、ゲンコツ一発で見逃してやる。今のオレは機嫌がいいからな。
 それとあとひとつ。夫婦っての、否定しきれない面があるっていうか…最近のオレの悩みごと。「計画」にもつながる問題なんだけど…。
 オレとオヤジがこの、異界のザナルカンドで二人暮らしをはじめたのは、少し前のことだ。元祈り子の人たちや、夢のまま消えた人たちの思いが、重なり合ってできた街。そんな夢よりももっと儚いこの場所に、先に辿り着いたのはオヤジのほうだった。オレは後から。スピラから消えた後、しばらくの間迷ってたんだ。ここにこれたときは、そりゃ驚いたし、いろいろと考えたりもした。結局オヤジと一緒にいることにしたのは、…これも、いろいろ考えてのことだ。
 で。問題はそれからだった。結論から言うと、オヤジと暮らすってのは思ってた以上に大変なことだった。オレ完全に舐めてたんだ。
 でもまさかこれほどとはって感じだった。オヤジのやつ、家事は全部オレに任せっきり、皿洗いのひとつもしようとしない。そのくせ、料理とかいちいち注文多いしさあ、部屋は散らかし放題だし。
 そうそうそれに、ブリッツも引退してたらしいんだ。なのにオレが現れた瞬間に現役復帰、おまえにエースの座は渡さねえときた。ふざけんな、…まあ、それは勝ち取るからいいとして、こっちが必死こいて練習してるのにオヤジは、チームメイトと遊びに行って、酒飲んで朝帰り、その世話させられたときにはさすがにブチ切れたって。
 ほどほどにするって約束させて、今はおとなしくしてる。けどそれもいつまで続くか。
 …とにかく。そんな感じだ。調子乗ってるよな、オヤジ。絶対乗ってる。
 だからオレ、考えたんだ。
「なあ、オヤジ」
「あんだよ」
 さりげなさを装って、朝からとんでもない量胃にかっ込んでるオヤジに話しかける。あのさー、もう歳も歳なんだからもうちょっと…ってあごんとこメシ粒ついてるぞ恥ずかしいな、…あー違う違う、そうじゃない。
「今日ダグルスとの試合じゃん?で、アウェイだよな」
「そうだったっけか」
「…日程ぐらい把握してろよ…それでさ、あっちのスタジアムってメシ、あんまうまくないじゃん。だから、はい」
 さりげなく、自然に。オレはその包みをオヤジに差し出した。
「あんだあ、これ」
「見てわかるだろ。弁当だよ、弁当」
「弁当?…へーえ、おめーも気が利くとこあんじゃねえか」
「だろ」
 よし。…よし!怪しまれてないな?成功だ!
 オレの計画、こうなったらもうほとんどやり遂げたようなもんで、オレはオヤジに気づかれないように一人、テーブルの下でガッツポーズを決めた。
 あー、どうなるかって考えるだけで顔にやけそうになる。…って。
「おい、弁当なんだぞ。今食べんなよ」
「わーってるって」
 言う必要なかったかもしれないけど、まじまじと眺めてるから、つい。
 そういえばオヤジ、いやに素直に受け取ったような気もするな。もっとからかってくるとか、んなのいるか!ぐらい言うとかすると思ったんだけど。
 まあいいか。
「弁当ねえ…」
 ここまできたんだ。もう後は楽しみにしてればいいだけ。オヤジがぼそっと呟くのも聞かなかったことにして、オレは朝メシの残りをかき込んだ。

 いよいよこの時がきた。
 朝練と、ミーティングが終わったとこ。スタメンの発表も監督からされて、今は少しだけゆったりとした時間が流れてる。試合前の心地いい緊張感ってやつの一歩手前だ。大体の選手が食堂に集まって、思い思いの時間を過ごしてる。
 そう…待ちに待った昼食タイム。
「あれ、ティーダ、今日は珍しく弁当なんだな」
「まーねー」
 試合直前に食べるメシといえば、その日のコンディションを左右すると言っても過言じゃない、大切なエネルギー源だ。…なんだけど、この日ばかりは関係なくオレはドキドキしてた。おかげで、チームメイトから話しかけられても上の空。
 オレの視線の先は、もちろんオヤジだ。ちょっと離れたとこに座ってる。
 オヤジも弁当を取り出してた。同じように周りに珍しいって言われてる。蓋を開ける…。
 オレの計画。ずばり、「恥ずかしい弁当でオヤジに恥ずかしい思いをさせてやろう作戦」だ。
 ふとしたきっかけで思いついたことだった。奥さんがいるチームメイトがいるんだけど、そいつがオヤジにからかわれてるの、たまたま見かけて。ジェクトさんもかわいい奥さんもらえばいいでしょ!って言われてたんだよな、それでなんかぴーんときた。
 オヤジを懲らしめるにはこれだ、って。
 真っ赤なハートとどでかいLOVEの文字。これでもかってくらいごてごてに飾り付けた、愛情たっぷり特製弁当。
「…」
 ふふ、ははは、びっくりしてる、びっくりしてる。周りもぽかーんってしてる!
 どうだ、オヤジ。この気まずい空気。もうこれはしばらくの間は、みんなにひそひそ噂されること間違いなしだな。あのジェクトが?かわいいー!…恥ずかしいだろ?それにスキャンダルとしてマスコミにかぎつけられたりして。大変なことになるかもな。へん、ざまーみろ、オレを怒らせたこと、後悔したらいいんだ!
 オレは勝ち誇った笑みを浮かべてオヤジを見る。
 目が合った。ん、なんだ?オヤジも笑って…。
「ずいぶんと熱烈な愛情表現じゃねえか、おい」
 思いっきりこっち見て言ってきた。…は?
「どれどれ。……うん、悪くねえ。けどよ、卵焼きはだしじゃなくて甘くしろっていつも言ってんだろうがよ。肉も足んねえぞ。それにデザートはどうした?…お、こいつがそうか」
 悔しいことに、今度はオレがぽかーんってする番だった。周りもまだ固まってたけど。
「…え?このお弁当、ティーダが作ったのか?」
「おうよ」
 しれっと食べて、しれっと言い放つオヤジ。信じらんないっていうのが一番だ。ほっぺが勝手にひくひくするだけでオレは動けないでいた、けど容赦なく、部屋ん中が一気にざわざわし出して。
「本当だ。ティーダのやつと中身が同じ」
「へ?い、いやこれは」
「すげー!料理うまいんだな、ティーダ」
「ち、ちが」
「愛妻弁当ならぬ、愛息子弁当ってとこか。っかー!うらやましいぜ」
「…は!?」
 違うって!反射的に否定はしたんだけど、みんな口々に勝手なこと言うばっかで、オレの言葉には聞く耳持たずだった。ええ、何だよこの空気。こんなはずじゃ…。
 みんな誤解ッスよ。これには深いわけが。オレは混乱するばっかで、慌てたら余計ややこしくなるのに決まってるのに、そんなことも考えつかなかった。だってみんなにやにやした顔で見てくるんだ。…ひい!あっちにいる女性陣のほうから、やばい変な視線が。やめろ、そんな目で見ないでくれ!
「愛されてんなあ、ジェクト」
「そりゃな。こいつはオレの嫁みてーなもんだからよ」
「はあ!!?」
 この日一番の断末魔が響き渡る。

 こんなことになるなんて。本当に大変なのはそれからだったけど、そのときのオレはただただ、自分の愚かさを呪うばかりだった。
 唯一にして最大の誤算は、オレがオヤジのことを甘く見てたってことだ。オヤジ自身のこともだけど。ジェクト様はなんでもあり。そんなんで全部納得しちゃうなんてまさか、みんなさあ、ちょっとは考えろよ、おかしいってすぐわかるだろ!?
 なんでオレがこんな目にあわなきゃなんないんだ。泣きたい。くそ…!
 覚えてろよ、オヤジ!

2018/4

 



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