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「左之」

眠りに落ちるというよりは失神すると言った方が正しいくらいの数秒で、斎藤は意識を手放した。

風呂に入れてやらなきゃとは思うが、薄く唇を開いて泥のように眠っているのを無理に起こすのは可哀想だし、取り敢えずはこのまま寝かせてやってもいいだろう。

肩口まで掛け布団を掛け、頭上に投げ出した両腕を中に入れてやっても、斎藤はピクリとも動かない。

「小っせえ頭蓋骨だよなあ」と愛おしそうに口元を緩めて、壊れ物でも扱うような丁寧な手つきで枕に乗せた頭を撫で、寝顔を眺めながらぽつん、と、新八は俺を呼んだ。

「ん?」

「あの、な。今更っちゃ今更なんだがよ、その……悪かったな」

煙草吸いてえな、と頭の片隅で考えながら返事をすると、新八はこっちを見ずに歯切れ悪く言った。

「何が」

やっぱベランダ行ってくるかな。いやそれより熱い茶でも淹れるか。

ボーッと考え事をしている俺に気付いたんだろう、新八はそこで初めて顔をこっちに向けて、もう一度「悪かった」と謝った。

「だから何が「斎藤はおまえが好きなんだ」…ああ、うん。だろうな。それが?」

それでどうしておまえが謝る必要があるんだ。

「その……。一度でいいから叶えてやりたくてよ。おまえの気持ちがどうとか考えねえで悪かったよ」

あれ…?バレてんのか?

「新八、俺は「知ってる」」

…………やっぱりか。

聞きたくないんだろう。

言葉尻に重ねて俺のセリフを遮った新八は、傍らに眠る斎藤を見下ろしてどこか痛むように口をへの字にした。

「俺はよ、左之。おまえも斎藤と同じ、大事な家族だと思ってるさ。だがな、恋愛感情があるかって訊かれたら頷けはしねえんだ。斎藤もそれは知ってる…っていうか、斎藤に言われて気が付いた。悪いが、おまえには本当に済まねえと思うが、俺は斎藤ばっか見てたからよ、おまえがどっち向いてるかなんて考えもしなかったんだ。まあ…、斎藤もおまえばっか見てたから気が付いたんだろうけどな」

俺等ってあれだな、リサイクルのマークみたいだな、と、新八は苦笑を浮かべる。

「あれだ、矢印が一方方向にだけ向いててよ、グルグルグルグルよ」

「……だな」

まあいい。

全部バレちまってて、ついでに告白する前にフられちまった訳だが、言ってみれば俺達全員が同じ境遇だってことだ。

新八は自分に向き合わない斎藤を想って、斎藤も多分俺の身代わりになってくれたんだろう新八に縋って、思い余っての今日だったんだろう。

「俺の願いも叶えて欲しいところだがな」

苦笑混じりの本音が口をついて出た。

ぐ、と詰まった新八は破顔一笑、「どっちが下ンなるんだよ」と俺の肩を叩いて立ち上がった。

「風呂入ってくるわ。後でもうちょっと飲もうぜ」

「おう」

酔い潰れて雑魚寝して、明日になったら記憶が飛んでるなんていうのも悪くない。

何も無かったことには出来ねえだろうが、斎藤を間に挟んでの兄弟付き合いはこれからも今まで通り続くんだろう。

飲み直す前に俺も風呂に入ろうと決めて、先ず頭を冷やそうと煙草を手にベランダへ出た。









視線の行先・終

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