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「いいのか俺達が相手で。可愛いお姉ちゃんとかよ、いないのかよ大学に」

「まあ…綺麗な女性もいるにはいるが…。わざわざ飲みに誘う程の相手でもない。自宅の方が落ち着く」

あくまでも自然にこの家を「自宅」と表現するようになって、どのくらい経つだろう。

何処か遠慮があったり邪魔にならないよう気を遣ったりする様子は今でも垣間見えるが、此処が斎藤にとっても心安らぐ我が家となったのであれば、それはとても幸せなことだと思う。

「ま、いいじゃねえか。家の方が落ち着くってんだ、男ばっかで色気は無えが、その分気安いってこともあるだろうしな」

正月に誕生日を迎えて、これで誰憚ることなく酌み交わすことが出来るようになったと喜んだ親父達にしこたま飲まされて、斎藤が案外イケる口なのが判った。

顔色ひとつ変えずに注がれた酒を淡々と飲み続ける斎藤をハラハラしながら見守っていたのは俺だけで、日付が変わる前には寝む斎藤にしては珍しく明け方まで酒盛りに付き合って、きっちり歯磨きと挨拶を済ませて自分の部屋へ入った。

酒量だけではなく体質に合う酒の種類もあるだろうし、その時の体調やペースにも依るだろうが、まだ俺は斎藤の泥酔する姿を見たことがない。

潰れる程飲ませたらどうなるのかな、と興味があって、出掛けないなら宅飲みにするかと誘ったのは俺だ。

新八は若者らしく合コンへでも行けと唆すが、そういえばこいつの周りには女っ気が無い。

少し酔わせて口が軽くなったところで色々聞き出してみようと用意した酒は、ビールから日本酒焼酎ワインウイスキーとひと通り何でも揃った。


そして飲み始めから3時間。

夕食を兼ねてのつまみはあらかた片付き、茶箪笥の奥から引っ張り出してきた乾き物やら漬物やらで飲むペースも幾分落ちてきた頃、まず新八が脱落した。

「放っとけ放っとけ。少し寝たらまた元気になって飲み直すんだ、気にすんな」

「だが…このまま寝ては風邪を引く」

平気だって言うのに斎藤は自分の部屋から布団を担いできて、ゴツい身体を転がすようにして寝かせてやった。

「新八、済まないが一度頭を上げてもらえないだろうか」

ご丁寧に枕まで持参して、グラグラと首の据わらない新八の頭を抱え込んで何とか浮かせようと頑張っている。

床に転がしておいたって何の支障も無いだろうに、よく出来た嫁だなおい。

こう甲斐甲斐しく世話を焼けばそりゃ可愛いだろう。

ここへ来た頃の変声期前の高い声は流石に男らしく低くなったが、華奢な骨格は以前とそう変わらない。

背もあまり伸びなかった斎藤は、デカい新八と並ぶと女の子みたいに細っそりと華奢な身体つきをしていた。

俺とでは比べ物にならない程、その容姿は新八によく似合う。

ガサツだし猪突猛進型だし常に騒々しい男ではあるが、男らしく物事に拘らないようでいて、周囲にさり気なく注意を払ってはそうと気付かせずにフォローが出来る、新八は誰がどう言おうと間違い無くいい男だ。

半分痩せ我慢の俺よりも、兄貴度で言えば数段上だろうとも思う。

だがな、斎藤。

たとえ似合わなかろうと、俺は新八が好きだ。

おまえが新八をどう思ってるのかは知らねえが、おまえらがどういう関係かも判らねえが、それでも好きだ。

もしも新八と斎藤が付き合っていたとしても、それがそういう付き合いだとしても、俺にそうと悟らせずにこのままでいてくれるなら、もう俺はこれでいいと思っている。

いつまで続けられるかは怪しいもんだが、元は新八の部屋だった四畳半を斎藤に明け渡し、幾らか広かった俺の部屋に新八の安物のベッドが運び込まれてからのこの7年は、何て言うかこう、物足りないながらも幸せな毎日だった。

「新八、頼むから協力して…っ!ぅわ!」

ぐんにゃりと弛緩した身体を少しずつ移動させながらやっとの思いで布団に包み、斜めに入った枕を直してやろうと苦心する斎藤を、ガバッと巻き込むように新八の手足が絡め取った。

抱き枕よろしくホールドして、布団に突っ伏した斎藤にジョリジョリと無精髭を擦りつけながら、新八は「サトミちゃぁん」などとヤニ下がっている。

サトミちゃん………石原さとみか?おまえファンだったよな。

微笑ましい光景を切ない物思いに耽りながら眺めていた俺は、「放せ!苦しい!」と手足をばたつかせて藻掻く斎藤の声に我に返った。

「おい新八。そりゃさとみちゃんじゃなくて斎藤だ。おっぱい無いぞ」

俺も無えけどよ。

「左之…っ!助け…!」

酔っ払いに全体重を掛けられては重いだろう。

ただでさえ小柄な斎藤は押し潰されるように抱え込まれて、挙句女と間違えているらしい新八に平らな胸板を揉みしだかれている。

じたばたしながら顔を歪めてこっちに手を伸ばす斎藤を助けてやろうと腰を上げて、よっこいせと手を掴んで引っ張ろうとした瞬間、斎藤が「う…っ、」とくぐもった呻き声を上げた。

見ると新八の手がスウェットのウエストからズボンの中に入り込んでおり、股間を弄るように蠢いている。

「や、めろ!新八!あんたは馬鹿か!」

さっと頬を赤らめた斎藤が、その腕を掴んで抵抗する。

「左之!頼む、助けて…」

酒の影響も幾らかはあるだろう。

だが俺はその、困ったような焦ったような、酔いに潤んだ目を眇める斎藤の表情に、ついムラッときちまったんだ。

考えてもみろ。

小柄で華奢で色白で、能面みたいな無表情かと思いきや案外判り易く本心を語る、覗き込んだら吸い込まれそうな瞳が真っ直ぐ俺を見ている。

しかもその瞳が熱っぽく潤んで、頬まで赤らめてる上に苦し気に眉を寄せてるときた日には、情事を想像しない方がおかしいだろう。

新八に股間を揉まれて、俺に「助けて」だぞ。

気付くなよ新八。

もうちょっとの間だけでいい、腕に抱いてるのがさとみちゃんだと思い込んでてくれ。

酔ってたんだ。

そうだ、そうに違い無い。

フラフラと吸い寄せられるように身を屈めて、掴んだままの手を布団に押さえつけて、俺は身動きの取れない斎藤に覆い被さった。





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