70 打ち明け話

二条城で千鶴ちゃんと私を攫おうとした三人組が、それぞれ薩摩と長州に属していることが分かった。

幹部会議で改めて狙われた心当たりを問われたが、分からないと答えるより他なかった。

だって、どう説明すればいいの? あの人達は鬼で私達も鬼だと言おうにも、全然ピンと来ない。

変わった体質だけれど、私達にあんな身体能力は無い……はず。足は速いけれどそれだけだ。

あんな風に石垣の上から飛び降りられるとは思えないし、力だって、並みの女性と変わらないだろう。

でなけりゃとっくにオリンピックに出ている。懐刀の練習はかなり成果をあげているが、肝心な時に役立たず。

あの時、逃げ出すことが出来なくて悔しかった。ホント、守られてばっかりだ。



「なぁ、千穂。本当のところ、どうなんだ?」

部屋で洗濯物を畳んでいると、左之さんが訪ねてきた。言いたいことは分かる。質問の意図も。

「……今ここじゃ言えない。誰が聞いてるか分からないから。でも、ちゃんと言うつもりだから、

 今夜部屋に来てくれる? 千鶴ちゃんにも伝えておくから」

「分かった。安心しろ、どんな話を聞こうが気持ちは変わらないから。千穂は千穂、だろ?」

「もうっ、お風呂での話蒸し返さないでよ!」

でも嬉しかった。やっぱり心配だったから。今でも心配だけど、左之さんなら大丈夫。そんな気がする。



夜、千鶴ちゃんと二人で待っていると、左之さんが襖越しに声を掛けてきた。急いで招き入れる。

「大丈夫、ちゃんと気配消して来たって。誰だと思ってるんだ? 一応組長やってるんだぞ?」

「ん、ごめんね。私も千鶴ちゃんも、誰にも話した事がないもんだから、心配で。左之さんを疑ってる訳じゃないの。

 とても大事な、秘密の話なの。あのね、まず見てもらった方が早いと思うから……いい?」

裁縫箱から針を取り出し、指先を突く。チクンと痛みが走り、小さな穴から血が出る。これでよし。

指先の血を口で吸い、傷口を見せる。分かるかな? 分かって欲しいな。余り大きな傷は流石に自分では無理だ。

「おい、何して……って……!! 塞がった? 傷が……無い? お前! いや、違うな。でもなんで!?」

「大丈夫、羅刹じゃないから安心して。でも……もっと御伽噺みたいだけど。

 あのね、私と千鶴ちゃん、傷の直りが異様に速いんだ、生まれつき。これはね、誰にも言ってはいけない

 父と私だけの秘密だったの。千鶴ちゃんも、同じ。同じ体質を隠して、今まで生きてきた。

 でも、二条城でね、風間達に言われたの。お前らも鬼だ、同胞だって。……鬼なんだって、私達」


「鬼ぃ!? 鬼ってあの、角が生えて人を食う……か? お前まさか血を欲しがったりは……?」

「まさか! やめてよ、あんな化け物と一緒にしないでくれる? まぁでも、普通の人間でもない、か。

 …………気持ち悪い?」

「いや、そうじゃねぇ。ただ、羅刹の奴らみたいに苦しんでたらって、そう思っただけだ。

 悪い、言葉が足りなかったな。体に害がないんならそれでいい。流石にまだちょっと混乱してるがな。

 怪我してもすぐ治るんだろ? いいじゃねぇか。お前の体に傷が残るより、ずっといい。だろ? 千鶴も」

「「ありがとうっ!!」」

分かってた、こういう人だって。だから言ったんだけど、でも、やっぱり嬉しかった。

「んで風間達はなんでお前らを狙うんだ? あいつらも鬼か? その方がよっぽどしっくりくるな。

 あっちは動き方も何もかも、人とかけ離れてたからな。悔しいが、あんな動きは俺らにゃ無理だ」

眉をしかめている。余程逃げられたのが悔しかったのだろう。私は二条城での風間達の言葉を伝えた。

 雪村という姓と小太刀と家紋で、千鶴ちゃんの身元を確認したこと。血筋がどうの気がどうのと言い、

 私にも何か感じて、二人とも同胞の里らしき所に連れて行こうとした事。女鬼は貴重らしく、天霧は丁重に

 迎えたいと申し出た事。千鶴ちゃんを前から探していた事。そこに、皆が助けに来てくれた、と。


「なるほど、女が少ない里に来い、か。見えてきたな。千鶴、たぶんお前いいとこの出なんだな。

 親父さんはきっと、ああいう奴らに見付からないよう隠してたんだろ。親なら娘は大事だ。だろ?」

千鶴ちゃんは嬉しそうに微笑んだ。そうであってほしい、私の父もきっとそうだったに違いない。

「私が千鶴ちゃんの子孫だって事は間違いないと思うの。向こうはまだそれに気付いてない。

 気付いたからって別に、どうも変わらないけれど。私達は今まで通りに暮らしたいし、ここにいたい。

 居てもいいって、言ってくれたらだけど。いいよね? ……って、ズルイか、こんな聞き方」

「ばっかやろう、居てもいいに決まってんだろ! 千穂は俺のもんだし、千鶴も妹みたいなもんだ。

 気兼ねしてどっか行っちまったら、地の果てまででも探しに行って連れ戻すぞ?

 覚悟しとけよ? 俺に惚れられるってのは、そういうことだ。離しゃしねぇよ。

 俺がお前を守る。俺たちが、お前らを守る。千穂も千鶴も、俺らのそばで笑っててくれや、な?」

左之さんの言葉の一つ一つが、心を包み込んでくれる。大丈夫、そう思わせてくれる。




左之さんは、千鶴ちゃんの頭を軽く撫でると、私の額にキスを一つ落とし、悪戯っぽく笑って部屋を出た。

――打ち明けてよかった、心からそう思った。






[ 70/156 ]

 

頁一覧

章一覧

←MAIN


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -