67 健康診断

将軍様に同行していた御典医の松本良順先生が、屯所を訪れて隊士の健康診断をしてくれる事になった。

私と千鶴ちゃんは後で診てもらう事になったのだが……。


「あの、千穂さん付いて来て下さい!」

千鶴ちゃんのお父さんと松本先生は懇意にしていたらしく、一刻も早くお会いしたいと袖を引っ張られる。

いいのかな〜分かってるのかな〜、きっと分かってないんだろうな〜……裸祭り。

グイグイ引っ張る千鶴ちゃんに、あきらめ半分で付いて行く。いや、絶対分かってないな。

ガヤガヤと隊士達の声が聞こえる方に行くと、廊下で伊東さんとすれ違った。

「あら、あなた達も健康診断なさるんですか? フフフ、それとも違うものが目当て、かしら?

 いいですね、若いって。まぁ、見たいお年頃ですものね。存分に楽しんでらっしゃい」

カァ〜ッと血が昇る。どうしてこの人はこういう言い方をするんだろう! でも相手は大幹部。忍の一字だ。

「失礼します。行こう!」

「千穂さん?? あ、失礼します」

当てこすりを分かっていない千鶴ちゃんを引っ張っていく。あの人ほんとヤダ! もうっ!

怒りのままに、勢いよく戸を開ける。ガラリ……。ああ、やっぱり。ですよね。

平隊士の診断は終わったのか、列に幹部がズラリ。……上半身を脱いで並んでいる。

「千穂さん! どうしよう!? あ、あの」

千鶴ちゃん、大いに目が泳いでいます。私はそこまで動揺しないけれど、流石にちょっと目のやり場に困る。

「よう、千鶴! 千穂さん! 二人とも検診か? 俺らもうじき終わるからここで待っとけよ」

まだ若いながらも流石に日々鍛錬しているだけあって、意外といい体の平助君。千鶴ちゃんは真っ赤です。

「新八、早くしろ。あまり待たせるな」

襟巻きしてない斎藤君、初めて見たわ。細身ながらも中々……いや、考えない考えない。

「おう! 先生よっく見てくれよ? 鍛えに鍛えたこの体! 病気も怪我も跳ね返すぜ!」

……新八さん、通常営業です。後がつかえてるから早くしようね?

総司の姿はない。きっと個別で診てもらうんだろう。まだ間に合えばいいけど……。

その時、温かい手が私の目を塞いだ。


「おいおい、新八早く済ませて服着ろよ。ったく。千穂、お前も何平気な顔して見てんだよ。

 千鶴ほど真っ赤にならなくていいが、ちっとは遠慮しろ。お前は……こっち見とけ」

そう言うと、私の向きをクルリと変え、手を外した。目の前の胸板に、目を瞬く。

え、いや、左之さんも脱いだまんまじゃない!

稽古の後とか、水浴びしてる所を何度も見た事はあるんだけれど、これほど間近で見る事は流石にない。

眼前に迫る逞しい胸板に、見る間に顔が熱くなっていく。ああ、きっと私も真っ赤だ。どうしよ?

「ん? どうした、お前まで真っ赤になって。俺なんてしょっちゅう水浴びしてるし、それこそ平気だろ。

 ……ひょっとしてお前、照れてるのか!? 俺を……見て。……お前っ、そっか、ハハ。

 やばいな、そんな反応されっと俺まで照れてくる。服着るから、外で待っててくれ」

左之さんは頭を掻きながら私を戸口の外に押し出した。あ〜ホント、恥ずかしすぎるわ、私。


「終わったぞ、次お前らだって。戸口塞いでてやるから診て貰って来い。……晒外すのは無し、な?」

「なっ、左之さんだって外してたじゃない。相手はお医者様だよ? 別に……」

「駄目だ。違うな、嫌だ。……俺だってまだ見てねぇのに。触られんのも無しだ」

それ、検診にならないんじゃない? という言葉が喉まで出かかったけれど、飲み込んだ。

お医者様に焼き餅妬くなんて、馬鹿じゃないの?


……しかもそれが嬉しいなんて、私はもっと馬鹿だ。あ〜あ、掴まっちゃったかな?



検診の結果、異常なしのお墨付きをもらえた。どこも悪くないけれど、聞くとやっぱりホッとする。

千鶴ちゃんは先生と話があると言ってどこかに連れ立って行った。お父さんの手掛かり、見付かるといいね。

全体の検診結果として、病気の隊士が多く衛生管理がなっていないとのお叱りを受けた。

早速大掃除が始まり、なんと大浴場が設置された。湯船バンザイ! 松本先生よく言ってくれた!


大掃除の時、総司の姿はなかった。結核なんて、感染しても発病するのは一割くらいなのに……。

この先を思うと、気が塞いだ。抗生物質もない今、出来るのは栄養ある食事と清潔な環境を用意する事だけ。

箒を持つ手に力が入った。





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