66 千鶴と千穂
将軍警護から戻った皆を迎えた夜。大きな疑問と不安を抱えた二人の娘は、夜着に着替えると見詰め合った。
「あの、千穂さん私達、鬼なんでしょうか? でも、父様も母様も普通で、私だって……。
ちょっと変わってるだけで……。同じ体質の人が実は他にも沢山いるんでしょうか?」
「いたとしても、きっと私達みたいに隠してるんだろうね。でも、歓迎されるって事は、集落があるのかな?
私達みたいな人が暮らす、場所か。千鶴ちゃんは行きたい? そういう場所に」
「えっと……風間さん? あの人、すごく威張ってて新選組を馬鹿にして、それに強引に来いとか言って。
なんか好きになれないです。他の人も皆同じだ、とは思いませんけど……。あの人は、苦手です」
「うん、なんか来て当たり前って感じだったよね。頭領って言ってたけど、だからって無理やりはいただけないな。
天霧って人はわりと丁寧だったけど。また来るのかな? もう放っておいてほしいな。ここで充分だよ」
「はい、急に同胞とか言われても困りますよね。でもこの体の事、皆さんに言った方がいいんでしょうか?」
「ん〜悩むなぁ。ここの皆なら、気味悪がるって事は無いとは思うんだけど……誰にも言った事ないんだもん。
やっぱり見る目が変わったらどうしよう、とか。信頼してるんだけど、怖い。ひどいよね、良くして貰ってるのに」
「でも、私もです。信じてるんですけど……怖いです。何か線を引かれてしまったらって思うと」
「あの……さ、もし、もしも打ち明けるとしたら……一人だけ言いたい人がいるの。
ずっと守るって言ってくれてて、実際……守ってくれてて。
……その人だけには、隠し事なしにしたいの。だってほら、怪我してもすぐ治るのに無茶してほしくないし?
それでもしあっちが怪我したら、普通に時間かかるんだし……。言ったら……駄目かな?」
「あの、それって……ひょっとして原田さん、ですか?」
「な、なんで分かったの!? え、分かる? そっか、左之さん結構露骨だもんね。アハハハハ。
あの、隠してたというか何というか……。ハァ、いいや。好きだって言われたの……私の事」
「クスクス、やっぱりそうなんですね! いいな〜原田さん格好いいじゃないですか! 優しいし。
大事にしてくれそう。千穂さんは、その、どうお返事したんですか? お似合いだと思うんですけど?」
「ん〜その時はただ驚いて。でも答えは出さなくていいからって言ってくれてね。それに甘えた。
でも今は……今はどうなんだろう?多分、 気になってる。意識してる、かな。
あと……少し、ドキドキする。なんか、私なんかでいいのかな、とは思うんだけど」
「うわっ、千穂さん顔真っ赤ですよ? フフフ、いいですね。ドキドキ、かぁ。
な〜んだ、私と変わらないじゃないですか! 散々平助君の事でからかった癖に!
フフ、いいな〜、原田さんか。私もあんな兄がいたら嬉しいです。付き合う事になったら教えて下さいね?」
「や、まだ付き合うとかっ! ……うん」
プシューッと頭から湯気がでそうだ。ホント、顔が熱い。あ〜〜〜恥ずかしい!
これじゃあまるで、好きって言ってるみたいじゃない! ……好き……なのかな?
もし。帰ることなくこの時代を生きて。生き抜いて明治を迎える事が出来たなら。
その先私はどうするんだろう。彼のそばにいて、いいのかな?
千鶴ちゃんの快諾を得て、いつか折を見て左之さんに体の事を話そうと決心した。
誠意には、誠意を。どうか受け止めてくれますように。祈るように、目を閉じた。
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